思考する。思案する。思索する。迷路のようにぐるぐると。もしくは海の波間をゆらゆらと揺蕩うように。なるほど、思考の海とはよく言ったものだ。海なんて本物を見たことはないのだけれど。
 例えばそれは待ち遠しい今日の夕食のことだったり、空間転移までの猶予に何をして過ごすかだったり、ああ、そう言えば脅威たるグノーシアのことだったり。つまるところ何を思い浮かべて考えて、それに対して期待するも落胆するもその一連の過程と結果が楽しい。あ、うん、嘘を吐いたかも知れない。誰をコールドスリープさせるかを考えるのは、まだ少し抵抗があるかも知れない。
 議論を重ねて、白を黒と疑って、或いは黒が白だと偽って、全てのグノーシアをコールドスリープさせるまで多数決を行う。無意味な争いを招くことと比べたら、セツの提案したそれが現状での最善のやり方だと理解してはいるのだけれど、そうは言っても最善イコール正当だとは言い切れない人間の感情って難儀で面倒くさい。
 今この身は自由を得て、自由意思を得た。何にせよ、朧げな記憶の中、狭く暗い場所に閉じ込められて思考を放棄していた頃が懐かしい。
「閉じ込められてんのには変わりねェじゃん」
「え……いまって、閉じ込められてるの?」
「グノーシアを全員ヤるまで船を降りられねーんだぜ? どう考えても閉じ込められてんだろ」
「……身体……動かせてるし……」
「お前今までどんな環境にいたんだよ……」
 するすると会話が続くけれど、どうやらぼくと彼の認識はズレているらしい。いまのは完全に呆れたような溜息混じりだった。簡単なようでいてその実、会話って難しい。言葉の裏に潜む真意が掴めない。
 うーん、自分の意思で思考して動けるって言うだけで十分自由なんだけれどな。そう口にはしてみたけれど、受け取り方も感じ方も人それぞれだと言う事は分かっている。ぼくには彼の呆れの理由が、彼にはぼくの現状を楽しむ余裕が理解出来ない。どこまでも果てしなく引かれた平行線。それを交わらせる妥協を取るか、断ち切る対立を取るか、それもまた人それぞれ。
「ンで?」
「うん?」
「わざわざそんなポエム聞かせに来ただけって事ぁねーだろ?」
「あ、うん、偶然ミンくん見付けたから、話し掛けただけ」
「ノーォオ・キディイング! ……ハァ、通りすがりにポエム投げ付けるとか尚更悪質過ぎんだろ。通り魔かお前は」
 はて、と首を傾げて見せると、彼はまたも大袈裟な動作でわざとらしく肩を竦めた。沙明の言葉って難しい。反芻して何度も噛み砕いてみたけれど、ぼくには理解出来なかった。
「ええと……、ごめん?」
「分かってねェだろ」
「うん」
「……ったく、マジでお前相手だと調子狂うぜ……そこそこイイ身体してるっつーのに萎えるわー……」
「ご、ごめん……?」
 うん、更にさっぱり分からない。分からないけれど、ぼくはまたもなんとはなしに謝罪の言葉を口にしていた。少なくともぼくの発言で不快な思いをさせてしまっているのだからそれは当然だとも思う。“ごめん”って便利な言葉だな。
「お前はいっつも緊張感が足りないっつーか、アホ面晒してほっつき歩いてるだけっつーか……ま、ナマエが目立ってりゃあその分俺が得しますし? せいぜいトークタイムを撹乱させて俺を守ってくれや」
「ぼく、守護天使じゃない」
「そう言う意味じゃねェしお前はちったぁ嘘を吐く事を覚えろっつーの」
「グノーシアでもないし……」
 沙明はまた溜息を吐いた。でもそれは突き放す為のものではないと知っている。だって彼はなんだかんだと言いながら不器用に優しい。いまだって、さっき彼が言ったように、通りすがりになんの脈絡もなく話し掛けたぼくの相手をしてくれている。夕食までの暇な時間をどう過ごそうかなと思ってフラフラしていたぼくの前に偶然現れたのが沙明だったと言うだけなんだけれど。
 いや、違うかな。ぼくはもしかしたら彼の姿を無意識に探していたのかな。
 だって、そう、沙明は優しいんだ。



「ミンくんミンくん、思い出した」
 いまだにグノーシアは船内に身を潜めている。人間をひとりひとり、確実に、消して行く。「何の為に?」その問いに答えられる人間はいないだろう。
 異星体グノースに汚染された人間はその端末たるグノーシアとなってこの宇宙から人間を葬り去る。分かっているのは揺るぎのない事実であるそれだけだ。葬り去られた人間がどうなるのかは分からない。通説は幾つかあるようだけれど、ぼくの頭ではそれ以上を考えるのは難しかった。
 そんなぼくにもひとつだけ、身に染みて分かっていることがある。グノーシアがいる限り、船内の乗員の数は減って行く。それはコールドスリープによるものだったり、グノーシアの襲撃によるものだったりするのだけれど、いずれにせよ一緒にいたひとたちがいなくなって行くのはとても寂しい。
「あのね、前にしげみちに教えてもらったんだ。ええと、何だっけ、旧時代のゲームなんだけど……えっと、カードを使う……ゲーム? あ、トランプゲームだ」
「フーン? またレトロゲーじゃん。そんなモンまで揃ってんのかよ」
「LeViに言ったら用意してくれたんだ。ただ、ぼく、色んなゲームを教えてもらったんだけど、ルールを忘れちゃって……ミンくんは、こう言うの、詳しい?」
「オッサン連中ほど詳しかねェけどな」
「ほんと? じゃあ、簡単なゲーム、何かある? ぼくでも出来そうなやつがいい」
「あァ? ナマエでも出来そうなヤツってそりゃお前……ねェな」
「うん、そう言わずに」
 グノーシア汚染体の侵入が発覚した日から、気付けば乗員は半分にまで減っていた。静まり返った船内にはふたりぶんの足音がかつかつと響く。軽い足取りのぼくと、重い足取りの沙明。響く音はそれぞれ違うけれど、向かう先は同じ。ぼくがくっ付いて行っているだけなんだけれどね。
 ひとといるのが楽しい。だから、構ってくれるなら誰でもよかったのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない。その辺りはぼく自身理解出来ていない。
 ゲームをしようなんて何故そんな提案をしたのか、それはただぼくが暇だったから。またなにか新しい事を識る事が出来ると思ったから。それだけは事実のはずだけれど、ああ、でも、自分で自分の考えていることが分からないって不思議だな。それでも、この得体の知れない感情だけは作られたものでなければいいなあとも思う。
 彼と同じ時間をすこしでもいいから共有したいと思う気持ちだけは、他の誰でもない、ぼくだけのものであって欲しい。
「つったってナマエ、お前にも出来そうなゲームなんてそんなハードな注文はねェわ」
「むむむ。あ、じゃあ、ええと……ババ抜き? ババ抜きだっけ? ババ抜きだったら? あれならぼくでもきっと出来る」
「んなもんふたりでヤってどうすんだよ、コレばっかりは面白くねーだろ」
「ぼくはきっと楽しいよ」
「あー……ヘイヘイ、もう面倒クセェからそれでオーケーって事にしとくわ……」
 娯楽室の一角、広いテーブルを挟んでぼくと沙明は着席していた。彼に関してはぼくが無理矢理座らせたんだけれど。それでもぼくは満足する。
 テーブルの上にぽつんと置き去りにされた小さな箱からカードを取り出す。ぼくはあの時、ゲームをしているみんなを見ていただけだったから、しげみちがやっていた様子を思い出しながら手順を踏んで行く。ええと、まずはジョーカーを一枚抜いて、カードをシャッフル。難しい。教えてもらったのは右手から左手に少しずつ移して行くやり方なんだけれど、どうにもパラパラと手元からテーブルへ落ちて行ってしまう。しげみちはそつなくぱぱっとやっていたんだけれど、難しいことだったんだな。そう言えば他にも色んなシャッフルの方法を見せてくれていたし、しげみちって実は凄いのかも知れない。
 まあ、仕方がない。ぼくはこの船に乗るまで自分で身体を動かした事がなかったし、いまでは手を挙げたりだとか振ったりだとか、あとは歩いたりだとかそう言う比較的大きな動作はどうにか出来るようになったけれど、どうにも指先を使うのってなかなか難しい。ご飯の時だってお箸、まだ使えないし。
「むむむ……、絶対に手が足りない。あと腕が一本あったら楽なのに」
「スィリィ、お前に足りねーのはどう考えても頭だろ」
「頭も……もう一個必要? それは重たくなっちゃうね」
 悪戦苦闘しつつどうにかカードを切って、ぼくと沙明のふたり分、手札を分けて行く。そこからまた教わった手順を思い出しながら自分の手札から同じ数字のカードを捨てて、手元に残ったカードを両手で扇状に広げた。あ、ジョーカーがいる、なんてそんなことを思いながら親指で文字をなぞる。
「ミンくん、準備出来た?」
「……なァ、これホントに楽しいのか? ナマエんとこにジョーカーがあるっつーのはもうハッキリしてるぜ?」
「楽しいか楽しくないかは、やってみないと分からないよ。それに、これをミンくんに引かせればいいんだよね?」
「自分の手札からジョーカーをなくすゲームだと思ってンだろ、お前」
「……ええと、一番初めに手札をなくした人が勝ち、だっけ……?」
 実のところ、ババ抜きだって咄嗟に出て来た言葉がそれだけだったから、ちゃんと内容を覚えているかと聞かれたら困る。
 よく覚えていない、よく知らない、色んなルール。それはゲームに限った話ではなくて、人間社会のルールの仕組みだとか、そう言った生きる上で重要であろうものすべてをぼくは知らずにここまで来た。教えてもらったり、助けられてばかりいるけれど、だからと言ってぼく自身がルールを身に付ける事を放棄している訳ではなくて。新しい事を覚えて行くのって大変な事だから、与えられたキャパシティは決して大きくはないから、少しずつ吸収しているに過ぎない。それでも新しいことを覚えるのはとても楽しいことだから。
 だからね、ぼくが何にでも興味を示してすぐにやってみたいって言ってしまうのは、仕方のないことなんだよ。そしてそれを取り零すようにぽろぽろと忘れて行ってしまうのも。ぼくは失敗作でしかないから。
「とにかく、ミンくんからどうぞ」
 ずい、とカードを持つ両手を彼に半ば押し付けるように差し出す。もう何を言っても無駄と悟ったらしい沙明は溜息を吐いてぼくの手札へと指を伸ばす。迷いなく引かれて行ったカードはジョーカーではなくて、彼はカードを確認すると自分の手札からも一枚引き抜いて山へと捨てた。
「む。隣がジョーカーだったのに」
「ンーフ、お前……いや何でもねェ」
 何故か、勝ち誇ったかのように口角を上げる沙明。なんだろう。でも、彼も楽しんでいるのならよかった。無理矢理付き合わせているのは流石のぼくだって分かっているし。
 すっと差し出された彼の手札。手元にジョーカーがある以上、何を引いたとしてもぼくの手札にも同じ数字があるのは分かっているけれど、初めての経験に鼓動が高鳴る。そっと指を伸ばし、引き当てたのは何の変哲もないスペードのクイーン。改めて自分の手札に視線を落とし、同じ数字を探して一緒に山に捨てる。たったそれだけのことだ。なのだけれど。
「……楽しい……!」
「へーへー、そうかい。そりゃよかったな」
 沙明は頬杖をついてつまらなそうにぼくの一連の動作を見ていた。みんなにとっては簡単で当たり前のことなんだろうけれど、ぼくにとってはそうじゃない。逆も然り。ぼくらはこうしてお互いに通じない何かを共有して、ひとつずつものを知って行くんだろう。ああ、うん、そうだ。きっとそうなんだ。それはなんて素敵なことなんだろう。
「やっぱり、知らないものを知るのって、楽しいことなんだよ」
「お前、世の中には知らない方が幸せっつーの事もあるって知らない?」
「ええ? そんなことないよ。だって、知るって幸せなことだもん」
「ストゥーピッド……、脳内お花畑で羨ましいぜ」
 それから少しずつお互いの手札を減らして行く。何度か嘘を挟んでみたりしたのだけれど、沙明は騙されてはくれなくて。でも、そのやり取りさえ楽しい。自分で選んで、自分で決めた行動の結果。それが返ってくる感覚って、こんなにも嬉しいものだったんだ。
「……ナマエ」
「うん?」
「お前、自分がどんな目に遭ってたか忘れたのかよ」
「んー……覚えてるけど、今が楽しいから」
 ぼくの言葉に沙明は目を丸くして驚いた様子を見せた後、苦虫を噛み潰したかのような表情になった。
 確かにこの船に乗る前のぼくは自分で何かを考えることなんてなくて、ぼくを造った博士をガラス越しに眺めるだけだった。会話なんて滅多になくて、あるのは博士の独り言だけで。話し掛けられる事があるとすれば、ぼくが如何に出来損ないの役立たずなのかと言うことを延々と聞かせて来る時だけ。言われるまでもなく、分かり切っていることをずっとずっと。
 だけど、ここにいるみんなはぼくに優しくしてくれる。色んなことを教えてくれる。今でこそ人数は減ってしまったけれど、みんながぼくにくれたものは過去のことを忘れてしまうくらい眩しいものだったから。
「あのな、そう言う問題じゃねェだろ。楽しくて、嬉しくて、そんだけで全部チャラに出来ると思ってンなら大間違いだからな」
 少しだけ乱暴な動作でぼくの手元からカードを引き抜いた沙明は、そのまま自分の手札と合わせて山へと投げ捨てた。なんだろう、怒っているようなその言葉は、けれどぼくに向けられたものと言うよりは自分自身に突き付けた言葉のような気がして。
 彼は過去に、何か大切なものを失う経験をしているのではないのかなと、ぼくは思っていた。それはオトメへの一件で何となく確信していたことだった。人の感情に疎いぼくがどうこう言えるものでもないけれど、それでも。
「ミンくん、」
「あー……悪ィ、今のは八つ当たりだわ」
「ううん、そんなことない。ミンくんは、心配してくれてるんだよね。ほんとうに優しいね、きみは」
「そう言うんじゃねェんだけどな……」
「なかったことには出来なくても、思い出で上書きすることは出来るよ。だから、大丈夫」
 沙明の手元から最後の一枚になったカードを抜き取る。彼が何を考えていて、どうしたいのかは分からないけれど、少なくともぼくはいま、彼とこうやって話をする時間をとても大切にしている。それは、ぼくだけが感じているものなのかも知れないけれど。
「お前はそれでいいのかよ」
「うん。だって、いままでのことをなかったことにしたら、それはきっとぼくじゃなくなっちゃう」
「ハー、調子狂うぜ。……お前、ホント馬鹿だよな」
「うん、ありがとう」
「褒めてねェよ」
 沙明の呆れた声を聞きながら、ぼくは手の中に残ったジョーカーをじっと見下ろした。これは、ぼくだ。ぼくだけが持っているもの。ぼくの気持ち。
 ぼくはどうしようもない失敗作で、だからぼくの代わりなんていくらでもいる。それでも、“ナマエ”と言う名前をもらったのは、ここにいるぼくだけだ。他のナマエでもない、自分ナマエだけが手に入れた大切なもの。
「ミンくんの勝ち、だね。負けちゃったけど、ババ抜き、楽しかった」
「お前なァ、ただカード引いて捨てただけでよく楽しかったとか言えるな」
「ええと……だって、たぶん、ミンくんと一緒に遊べたから?」
「疑問系かよ」
「あと、カード引いた時のドキドキ感とか、なんだか胸の奥がきゅうってなって、それなのにふわって浮くみたいな、そういうのが楽しくて」
「何言ってっか全然分かんねェから落ち着け」
「……もうちょっと分かりやすく喋れるように頑張る」
「ンなもん最初からいらねーっつの。ま、楽しかったんならいいんじゃね? 俺も暇潰しくらいにはなったし?」
 わしゃわしゃと頭を撫でられる。その手を掴まえて、ぎゅっと握り締めた。
 ぼくは、沙明ともっともっと話がしたい。一緒にいたい。沢山知って、沢山考えて、それから――
 それから、どうなるんだろう。何も考えていなかった自分に気付く。考える事は好きだけど、得意じゃない。取るに足らないことばかりを考えて、流れに身を任せてばかりで。だから、どうすればいいのか分からない。自分の意思で何かを決めることは楽しいばかりじゃないし、上手く事が運ぶなんて稀なことだと知ってしまった今、何もわからなくなってしまった。
 ぼくは、どうしたいんだろう。ぼくは、どうなるんだろう。
 分からないまま、そっと彼の指先を離す。途端に、息の仕方を忘れてしまったみたいになる。ぼくの思考回路は、本当に役に立たないものだった。どうしてこんなに難しいんだろう。
「……どうした?」
「あ……ううん、なんでも、ない」
「嘘吐けよ」
「ほんとう、に」
 黙り込んでしまった沙明に、何と言えば良かったのか分からずに俯く。ぼくは結局何も分からないままだった。彼に何を言えば伝わるのかも分からないし、どんな言葉を掛ければ正解なのかもよく分からない。だからたくさんのことを知ろうとしたのに、それももう上手くいかなくなってしまった。
 俯くぼくに沙明が溜息を吐く。ぼくはきっと、彼の優しさに甘えていたんだ。やっぱりきみは優しいよ。優しすぎるからぼくは、きみのことを。
「だーから言っただろうが。知らない方がイイ事っつーのは少なからず存在すんだよ」
「……ごめんね、ミンくん。また、明日」
 何も言い返せなくて、ただそれだけを絞り出すとぼくは逃げるようにして娯楽室を飛び出した。
 また、嘘を吐いたかも知れない。“また明日”なんて、本当にあるかも分からないのに、ぼくはずっとそのことに気付きもしなくて。明日が当たり前に訪れると思っていたけれど、そうじゃない。そうじゃなかった。
 初めて怖いと思った。ずっと楽しいことだけを考えていたけれど、きっと世の中はそれだけでは上手く行かない。ぼくは沙明と一緒にいる毎日のことだけを考えていたけれど、もしかしたら明日にはぼくが、沙明が、いなくなってしまうかも知れないのに。そう考えたら、怖くて仕方がなくなってしまった。
 初めから行き止まりだった。世界は閉じられていた。知らないままでいた方が幸せな事もあると彼は言ったけれど、ぼくはそうは思わないと言い返したけれど、いまになってその言葉を後悔していた。知らないままでいられたら、そう、きっとこんな風に苦しいと思う事もなかったのに。ああ、そうだ。苦しくて、痛い。心臓が鷲掴みにされているようで、呼吸が出来ない。この苦しみはきっと、今まで感じて来たどの痛みよりも鋭くて重たかった。
 ――ああ、ようやく手に入れたぼくがぼくである証も、この感情すらも、なかった事になってしまうのかな。



END.
20230907
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