朝を迎えて思うこと

 スズメの鳴き声で目が覚める。

「うーん……」

 まだ眠いな、と思いながら隣を見ると、そこには誰もいない。
 ベッドから起き上がるといつもの自分の家とは違う光景で、……そうだ。
 そうだった。俺は昨日、ガイアと寝たのだった。

「清清しい朝だな」

 まだ地平線から、太陽はその姿を現しきってはいなかったが、全身から感じる気だるさとは対照的だ。
 こんなに早く目が覚めるのは珍しい。それに、昨日は多少お酒も入っていた。
 欠伸を噛み殺しながら床に落ちていた服に袖を通し、部屋の扉を開ける。

「おはよう、ガイア」
「おう、起きたか」

 ガチャリと回るドアノブに、いつもより軽装のガイアは振り返った。
 彼はいつもどおりに振舞っているように見えた。

「なにそれ……朝ごはん?」
「ああ。腹減ってるか?」
「そういえば……」

 空いてる、と言って、椅子に座る。トーストと目玉焼きなんていう素敵な組み合わせはいつ以来だろう。
 ガイアは俺の目の前にコーヒーを置いてくれた。

「二日酔いは」
「んーん、大丈夫」
「そうか」

 コーヒーはブラックが好きだ、と言っていたのを覚えていてくれたのだろうか。
 ガイアは自分の分にミルクと砂糖をたっぷり入れてきて、俺の向かいに座った。

「……調子は?」

 控えめにそう尋ねられたが、俺はぶっと息を吹き出す。

「おい、何聞いてんの」
「いや、別に。普通の意味で」
「普通の? この流れで」

 2人で迎える朝。淹れたてのコーヒーの匂いと、床に落ちた昨夜の残り香。
 それら全てが帰結する事実なんて、たった1つしか無いように思えるけれど。

「――まあでも、しあわせ、かなあ」

 例えば陽の光を浴びて目覚めること。こうして朝食を共に摂ること。
 この先ずっとそれが続く保証なんてなくたって、今ここでこうしていることは、誰にも否定できないのだから。

「幸せ、か。それならいいけど」
「ガイアはどうなの?」
「俺か」

 ガイアはコーヒーで喉を潤す。……あれでコーヒーの味はするのだろうか?

「俺も幸せだな。……レイシがここに居てくれるんだったら、だが」

 俺は目を瞠る。ガイアがそんなことを言うとは思わなかった。
 裏切られることを恐れ、俺は言葉を濁したのに。

「……ガイアが居てほしいって言うんだったら、ずっと、いるよ」

 どこでも。どこまでも。ガイアの望む所まで、着いていく。
 俺がそう言うとガイアは笑った。

「そんな血生臭い所に連れてく気はないからな」
「うーん……まあ、一夜を共にしただけで、こんなこと言うなんて女々しいかもしれないけど」

 それとも、こんな幻想を抱くのは、男の方だろうか? 全てを自分のものにしたような気になるなんて。

「ずっと好きだったこと、思い出したんだ」

 まだ熱に浮かされたような、朝。





2016.05.15