戻れと言えば君は戻るのか

title by spiritus





 異界の地でその世界が禍に冒された、と知った時。
 居ても立っても居られず、召喚師である彼は選りすぐりの戦士達を引き連れ、すぐにその門へと向かった。

「ここから先は非常に危険な世界だ。今までの禍の比ではない」

 マルス、と名乗る仮面の男は、いつもの様にその門の前で待っていた。この門は、この世界と禍を繋ぐ場所だ。
 ご丁寧な忠告に彼は頷く。自分がどうなろうと最早構わなかった。

「……君の覚悟は、本当に恐れ入るよ」

 溜息混じりのマルスの言葉。それには理由がある。

「任せろ。俺たちが必ず守る」
「頼もしいな」

 彼と共にそこを訪れたヘクトルはそう言う。エリウッドも頷いた。

「強大な敵だが、君たちなら、或いは……」

 彼らは門を潜った。





 並みいる敵を片っ端から薙ぎ倒していく。いやに快調なのは、勿論ヘクトルらのそもそもの技量が高い所為もあるが、召喚師に依る指示も一因だろう。
 召喚師自身は戦うことができない。神器、と呼ばれる武器を持ってはいるが、それは戦うためでなく、異界から英雄達を召喚する為の物だ。
 だから彼に危害が及ばぬ様同行する英雄達は注意を払う必要がある。しかし彼の戦局を読む才能は同じ様な能力を持つ軍師ルフレの比ではないから――飛び抜けているという意味だ――付き従う者達も不安を覚える事は無いのだった。
 そんな中、多少は傷を受けながらも7つ目の部隊の前に立った、その時だった。

「……っ!」
「あれは!」

 向こうの部隊に見慣れた者が居る。思わずエリウッドは、その敵と、傍らの男を交互に見比べた。

「ヘクトル……!?」

 否、そんな筈はない。分かっていても驚いてしまうくらいには似ていた。
 しかもヘクトルと言えば豪腕で有名だ。仲間であって良かった、と安堵する場面も多々あり、そんな男が敵に居るとなれば。

「レイシ、戻ってくれないか」

 その時、エリウッドは彼に声を掛ける。低い声だ。有無を言わさない様な圧を感じる。
 恐らく召喚師の指示があれば、何とかして勝つ事は出来るだろう。それも確約は出来ないが。
 だからせめて、彼だけには無事で居てもらおうと思ったのだった。しかしヘクトルは笑う。

「エリウッド、分かってるだろ? レイシの性格を」

 ここは禍の門。もう何度も潜ってきたから、危険だという事など彼自身が一番良く知っている。
 一度決めた覚悟は覆さない。この禍を消し去ってしまわなければ、彼らの世界は救われない。
 彼に戻るつもりなどなかった。ヘクトルはそれをよく分かっていた。

「戻れっつったって、レイシは戻らねえよ」

 だから。
 アルマーズを握り直す。

「俺たちが全力で守るんだよ。そうだろ?」

 さあ指示を、とヘクトルは言った。



2017.10.10