花占いの信ぴょう性

「男、女、男、女……」
「何しとるんですか、澪士先輩」
「あ、光」

 放課後、俺はテニスコートのすぐ近くに咲いていた花を見つけ、皆が来るまでの間にずっと毟っていた。
 最初に来たのは後輩の光。ある意味で俺の目当てはこの人だったわけだから、好都合だったかもしれない。
 また毒舌を突き刺してくれるのだろうか、と思いながら答える。

「いやね、俺がさ、男なのか女なのかと」
「は?」

 アホちゃいますか、とも言われない。

「……というのは嘘で、光の恋愛対象が男なのか女なのかを占ってたんだよ」
「……澪士先輩がアホなのは知ってましたけど、そこまでアホだとは思いませんでしたわ」
「男、女、」

 光が溜息をつく間にも、俺は花びらを毟り続ける。
 実はこれ、5本目の花だったりする。

「そんなの占ったところで、もう答えは決まってるやないですか。占いにもならん」
「うん、そうなんだよね」

 そして今までの4本は全て、女、で終わっている。まあそれもそうか。
 この財前光くんという奴はれっきとした男の子で、男の子というのは、大概女の子が好きなものである。それにとっても綺麗な顔立ちをしているから女の子のファンも多い。勿論例外もいるし、男女どちらも愛せる人もいるが。

「男、女……ああ、また女で終わっちゃったよ」

 別に花占いなんか信じちゃいない。本当にどちらでもいい程迷った時は、頼ってもいいかもしれないと思っているけど。

「澪士先輩は男と女、どっちが好きなんすか」
「女の子。巨乳の」
「……分かりやすいっすわ」

 光が俺の隣にしゃがみ込む。目線が同じ高さになる。
 けれど俺は、敢えてそちらは見てやらない。
 もう気がついていることはお互い気がついているのだけれど、そのことは互いに内緒にしているのだ。

「でもさー、まあ人間生きてれば、例外もあるよね」

 花を地面に捨てる。散った残骸を見て、光は嫌な顔をする。

「何なんすか。言いたいことあんなら言ってもろてええすか?」
「ふふー。俺は巨乳の女の子が大好きだけど、「財前光」っていう例外が居るんだ」

 苛立ったのかいつもより口が悪くなったので、俺は宥めるように笑って言う。
 気づいてるのに、気づかない振り。それを塗り固めて出来た、俺たちの関係。
 でもそろそろ、それもいいじゃないか。

「……いきなり何言うてるんすか」
「ははあ、照れてるな、財前くん? でもね、俺たちもうお互いのことは、ずっと昔から知ってたじゃないか。」

 初めて光がテニス部に現れた時。
 その時、目が合った時から、俺たちの関係は始まっていた。

「恥ずかしいこと言わんといてもらえます?」
「光、ねえ、俺と付き合おう? そんで、俺のこと、いっぱいに満たしてほしい」
「……はあ……」

 らしくなく、光は困った顔で溜息をつく。本当にらしくない。
 でも、そんな顔をしている光も愛おしい。

「それ、ほんまはオレから言いたかったんすわ」
「そうなの」
「澪士先輩、責任取ってもらいますからね」

 そう言って光の顔が近づいてくる。ああ、そういうことか。俺は甘んじてキスを受け入れる。
 本当は多分俺たちはずっとこうしたくて、何でずっと避けていたのか、不思議なくらいにしっくりきた。