壁がわたしの体重を受けて、衣擦れの音。ドラマの背景みたいに、余所行きの音だった。わたしの服も、こんな状況に緊張してるのか、はたまためかしこんでるのか。どくどくと地を這うみたいに低い重低音はわたしの心臓。送られた二文字の言葉と、浸食されたパーソナルスペース。混乱は混乱を呼び、わたしはキャパシティを超えている。

 話題の俳優を使った新月9ドラマ、主演、茅ヶ崎至。うん、似合う。カメラに壁ドンしてるみたいにしたら、テレビの向こうのオンナノコたちがきゃあきゃあ言うに違いない。ありもしない新しいドラマを創作しながら、至で出来たた影がわたしにかかって追い詰めてくる。真剣な顔、仕事終わりらしいスーツのまま。

 あの茅ヶ崎至に、カンパニー内で、壁ドンされて。彼が突っ張っていた腕を折って壁につけると、ますます距離が近くなる。香水のにおいがしてぎくりとした。わたしは今、こんなイケメン役者とこんなに近くで顔を突き合わせているのだ。なにそれ、頭ぐらぐらする。誰かが来るかもしれないよって、笑って流してみればいいのに。そう言えば今、イベント中って言ってなかったっけ?クエストはいいの?浮かんでは来るそんな言葉も。真剣にわたしを突き刺す鮮やかなひとみがそれを許さない。

「好き」

 ぽつりと、上から降ってくる二度目の言葉。届いたそれは刃物のようにずぐりとわたしの心臓を一刺しして。
 至のことがわからない。思っているうちに、すい、と顔が降ってきて、頬と頬が触れあいそうになる。体を縮こまらせて胸を押すと、片手を取られて壁に縫い付けられてしまう。

「ま、待った、至、落ち着いて」
「落ち着いてる。ずっと前から」

 今こうしてわたしを捕えているのは当然みたいな顔をした至と分かり合える気がしない。何で好きなのとか、ほんとにわたしが好きなのとか、ゲームが恋人じゃなかったのとか、ゆっくりとその言葉を噛み砕く時間が欲しいのに。

「落ち着いたから言ったの。お前が欲しいって」

 直球なせりふはきみの即興?駆け引きのないまっすぐな言葉に、当然って表情をを向けられたら、わたしの心なんて痺れて崩れてしまう。性急に求められている感じが、至に余裕がないと思わせて、必死なようにも見えてしまって、わたしはそんな彼に、ドキドキさせられてしまっている。真っ赤に染まって変わる頬を、どうしてくれようか?

「ゆら、好き」

そんな甘ったるい声を聞くのなんて、三度目が、限界だ。




真っ赤な嘘なんてルージュで十分


気のせいじゃないならまあそれもいっか
パスピエ/マッカメッカ
茅ヶ崎至