1・2・3・Fire!

「あ、ゆらさん!こんにちは!」

 咲也くんの明るい声で、わたしの方に一斉に視線が向く。MANKAIカンパニー談話室、どうやらちょうど春組のみんなが集まっていたようで(至がちゃんと談話室にいて感動する)向けられる笑顔に引っ張られるように

「春組ちゃん、こんにちは」

 どさりとテーブルにおみやげのドーナツの箱を置く。劇団ちゃんたちの全員ぶんって結構大変だ。

「甘いの苦手な子にはジンジャードーナツ買ってきてみたから選んで食べてね」
「いつもありがとうございます…!」

 咲也くんはかわいくっていつも頭を撫でたくなってしまう。そうっと撫でてみたら恥ずかしそうにはにかむから、もうかわいくってしかたがない。その様子をにこやかに見ていてくれる綴くんもお兄ちゃんって感じでかわいいし、「オー、ゆらチャンいつも優しいネ」とうきうきしているシトロンくんもかわいい。シトロンくんって、シトロンさんて呼びたくなってしまう。

「いつもドーナツですね」
「好きなんだもん…」
「千景さんと好み違いすぎじゃない?そういうのってつらくないの?」
「うーん、慣れた」

至が高身長を生かしてわたしの上から箱の中身を覗き込む。「ゲームはいいの?」「うん、まあ」おでこが出てるオフモードだけど、今日はいいらしい。至がドーナツを選びやすいようにちょっとだけ場所を移動する。

「俺、甘いもの好きだけどね。おいしいパンケーキ食べられるカフェ、都内に新しくできたらしいんだけど、行く?」
「至がゲームの時間削って?」
「……ゆらサン、俺のゲーム事情心配してくれすぎじゃない?」
「え、だって休日だよ?好きなことしてたいじゃん…」

 前髪を上げた至がピンクのストロベリードーナツをつまんで齧りながら、うーん、と唸る。なんか、イケメンがかわいいドーナツ食べてるのって眼福だなあ。なんて思考を抱えるようになったのは、MANKAIカンパニーに出合ってからだとしみじみ思う。咎められないのをいいことにじろじろみてたら突然体が重たくなって手が動かなくなる。突然の重力に図らずも悲鳴。

「ひ!?」
「俺も春組ちゃんなんだけど?」
「ち、千景!」

 後ろから突然腕を巻き付けられて、抵抗しようと手を上げようとしたら手首をつかまれる。唯一談話室にいなかった千景は一体どこから湧いて出たのか。わざとらしく耳に口元が近づけられているような気がしてなんとか身をよじろうともがくのに、多分そうしようとしてるのも分かってて、ますます唇が近づいてる、ような。
 咲也と綴が顔真っ赤にして見てるし、シトロンが「オーウ、ハレンチね〜!」って喜んでるし(喜ぶな)、至近距離で至が見てるしお願いだから勘弁してほしい!

「千景はいつもいらないって言うでしょ」
「俺のぶんだけないのひどくない?」
「うるさいな、スパイス味音痴に食べさせるドーナツなんてありません」

 思いっきり振り払うとなんとか千景の香りから解放される。恋人とはいえやっていいことと悪いことがある。じろりと睨むとにっこりと眼鏡の奥の目に笑われる。む、と尖っていたらしい唇に千景の指が伸びてきて慌てて後ずさると、至の胸板に後頭部をぶつける。

「あ、ごめん、至」
「んー」
「おいしかった?」
「うん」

 と思ったら腕を引かれて今度は千景の胸板におでこをぶつける。痛い。

「先輩、公衆の面前でイチャつくのやめてもらえません?非リアには沁みるんで。」
「茅ヶ崎はゲーム充優先の癖に」

 こうしてMANKAIカンパニーに混ぜて貰ってわちゃわちゃできるなんて、わたしほんとに贅沢だなあ。商社マンふたりの間を抜け出して、固まったままの咲也と綴の背中を押す。ジェンガしよ、って言ったら途端に元気になるから、ほんとにかわいいなあ。