ぺたぺたと、音がする。床と、靴下なしのむき出しの足の裏側が擦れ合う音。もう少し夜が深まって、真っ暗になったカンパニーで聞いたなら、きっとちょっと怖く聞こえる音だろうと思う。幸い今はまだ、明かりも煌々とついているし、どこからともなく団員たちの声がするから怖いなんてことはないけれど。

その足音の主と、廊下で遭遇する。やせいのいたるがとびだしてきた。お風呂上がりらしい彼は大雑把にタオルドライをして、おつ、と、敵意なく瞳を細めて笑った。完全に仕事モードを脱して羽を伸ばしている至の顔。コーラを持っている至の頬も、口も、お風呂上りのせいで血色が良くなっていて、ほんのりと薄く色づいている。

「風邪引くよ」
「すぐ乾く」

タオルを両手で奪い取ってわしゃわしゃと柔らかい髪から水気を取る。目を薄く閉じる至は犬みたいでちょっとかわいいって、いつも思う。くすぐったそうに笑うのを見届けてから手つきを穏やかなものにすると、至はするりとポケットからスマホを取り出してゲームを始める。伏せられた彼の睫毛もわずかに水分を含んで重たくなっている気がして。落ち着いた雰囲気にほんの少しだけ、どきりとしてしまうのが悔しい。

「……自分でやってよ」
「ゆらがやってくれたんじゃん」

そうだけど、とは言わずに黙ってタオルを至の首にかけ直す。お風呂上りの清潔な香りがふわりと鼻腔をくすぐって、

「(……なんか、いろっぽい)」

睫毛、頬、くちびる、と。濡れた雰囲気になるべく静かに、視線を潜らせる。からだの奥、乾いた欲が疼くような感覚に、そっと唇を噛んだ。

「……ゆらもさ、仕事ひと段落したんでしょ」
「え?」
「そういう目してる」

目?と、問いただす前に、至の顔があっという間に近くなって、驚いて息が詰まる。唇の片側を釣り上げて、「そんなに食べたい?」そう言って少しだけ首を傾げる至に、熱される。顔が赤くなったのなんてわかってる。くすり、と笑って、顔が近いまま、至は首元のタオルをわたしと至に掛かるようにして、明かりが薄い布でほんの少し遮られる。至の顔に影が下りる。ゆっくりと瞬きをして、至はわらう。スマホの画面は付けっぱなしで、ちらちらと目の端でブルーライトが光る。

「……ほら、食べないの?」

フェイスタオルくらいで、こんなことしてるのが隠れるなんて思ってない。人がいないのは分かってるけど、この大所帯で人なんて、いつ来るか分からない。それなのに、目の前のあざとい男の挑発に、乗ってしまうわたしもどうにかしている。

タオルの薄い影に隠されながら、至の唇に噛みついた。

至の手を引いて、思いっきり引っ張って、足早に部屋に向かって、わたしの部屋に押し込んで。至をドアに押し付けて、一緒にくちびるも押し付ける。


「……積極的」
「うるさい、ばか」


腰に至の手が回る。口がくっついて、離れて、またくっついて。わたしのことをからかう至だって、瞳が熱に浮いている。
求めて、求められて、舌が絡んで、思考が溶けていく。もういいや、って、思考を離せば、見透かされているみたいに至にますます引き寄せられて。


与えられる甘い空気に、浸って、浸かって、目を閉じる。いつもなら、たべられたい、たべてほしい、たべちゃいたい。はずかしくなるくらいはっきりした情欲を、至が見たらなんていうだろう。