「おい監視官、起きろ」
「ぶは」
監視官の朝は早い。夜が遅くとも早い。眠くとも、疲れていようとも、怪我をしていようとも。何があろうとも起きて、準備して、管轄を駆け回る。何かあれば夜中でも朝方でも起こされるなんてもう慣れたものだ。
「ちょっと卯木、起きるときくらい快適に起こして」
「なら自分で起きろ」
普通に、平和に眠っていられる朝だったのに。鼻をつままれて息ができなくなって目の覚める朝なんて最悪だ。もっとなんかロマンチックな目覚めとかあるでしょうに。なんてことはノーロマンな執行官に伝わるはずもない。アラームを止めずにベッドで唸っていたわたしが悪い?そんなことはない。
まあ、起きて向かったキッチンに、わたしのカップにわたしの分のカフェオレが入っていることに関してはまあ、ロマンチックでなくもないのかもしれない。わたしと組んだばかりの卯木のことを考えれば、ロマンチックでなくはないのかもしれないけれど。
「さあて、今日も働きますかあ」
「俺は朝からもう一仕事したけどな」
「今日の朝ごはんもおいしかったー」
「それはよかった。監視官サマは合成料理がお嫌いだからね」
「イヤミ言うなら作んなくていいよ」
「もう慣れたら?」
普通、潜在犯は隔離されて生活するのが当たり前。だから今わたしと卯木がしている共同生活は異常なものだ。少なくとも世間からはそう判断されるだろう。
執行官・卯木千景の犯罪係数は、一般的なものとは少し離れた特徴を持っていた。長きに渡るシビュラ・システムの統計から見ても異端と言えるほどに、犯罪係数のブレが激しいのだ。0から300まで、ぐらぐらと不安定に揺れている。そのためひとまず施設に入っていたところを、執行官としての可能性を見い出され出てきたのだ。
ただ、だ。一般の執行官たちのように、常に犯罪係数が高いわけではない。普段の生活の間には、このわたしよりも低い数値でいることも多い。しかし一方で、執行官として外に出るには高すぎる数値ーーつまり、即刻執行されてもおかしくないほどの数値さえも、併せ持つ彼をどう扱ったものかと熟考した結果が、コレ。
監視官をつけた24時間体制のW監視Wである。
いや男を付けろよ、とか(卯木は女嫌いな男だったから尚更、着任したときはそればかり思っていた気もする)、わたしは休日部屋で過ごすが、見張りをする立場でいる以上、多くの仕事を共にすることになる。いま実感としては9割5分、というか、別の任務に就くのがあると珍しいね、と思うくらいの頻度だ。つまり休みも殆ど同じになる。見張らなくてはならない対象が同じ部屋にいる休みとは?とか、思っていた頃もあったけど。増えるお給料、公安の仕事へのプライド、前代未聞の仕事へのえも言えぬ興味と。まあなんというか、わたしも大概ワーカホリックというわけだ。まあ、こんな世界じゃ仕事くらいしかやることながないわけで。
「卯木〜」
「はいはい 」
卯木と二手に分かれて、わたしが犯人を追う。バカバカ銃で撃ってくるものだから仕方なく物陰に隠れながら追跡する。このご時世でそんなもんどこで手に入れた、やれやれ。
わたしばかりに気を取られていた犯人は、狭い路地から飛び出してきた卯木とバッティングする。わたしと卯木に挟まれた半人は成す術もなく、卯木のドミネーターによって血肉と化していった。一部始終を見ていると視界が暗くなる。卯木の手だった。
「まじまじ見るな、監視官」
「卯木この辺の路地ほんと強いねえ、お見事お見事」
「話を聞け」
「お腹すいたね」
「図太い神経だな」
「うん、だから隠してくれなくて大丈夫」
大きな手を、そっと外す。眼鏡の向こうの表情は、わたしを案じるように少しだけ潜められている。それがわかるようになったのも、長く関係を築いてきたからこそだけど。
「帰ろうか」
「…はい」
もうわたしの相棒は、彼以外にあり得ない。そう思うほどには、懐柔されているのだ。
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