ああ、しぬ、と、思った。目の前のことは全部目で追えているのに、体が動かない。魔術も間に合わない。もうだめだ、と鮮明に思った後、本能的に目が閉じた。
突然天井が落ちてきたみたいに、わたしの命はあっという間に塞がれてしまうのだ。後悔も、やり残したことも、なにもかも、わたしの中ですら形にならないままで。
「……いつまで目、閉じてるの?」
わたしの思考はまだ幕を閉じていなくて、その証に、わたしの耳は誰かの呼びかけを聞く。穏やかな声は、わたしの沈みかけた思考を、優しく腕を引くように引っ張って。
そっと目を開けると、しゃがみこんだわたしを覗き込むように誰かいる。鮮やかなマゼンタの瞳が、ゆるりと細められる。
敵意はない。でも、誰だろう。窮地のわたしを助けてくれるような人が、この世にいたものだろうか。目を白黒させているわたしを見て、目の前の男性はくすりとおかしそうに笑った。
「あの、ごめんなさい、どちら様ですか?」
「ふは」
ひとまず立ち上がろうか。そう言って差し出される手を掴むと、優しく掴まれ優しく掬い上げられる。「君が呼んだんでしょ?」そう言って、ふわりと笑う。
「……サーヴァント、」
「そうだよ」
「敵は、」
「ああ、もういないよ。俺とマスターの初めましての場にあんなのがいるなんて嫌でしょ」
マスター。わたしをそう呼ぶ目の前の彼は、わたしのサーヴァントだという。そうか、わたし、そっか。呼べたのか。
「キャスター、だよね」
「大当たり。あなたのキャスターです、マスター」
取られたままの手をそっと持ち上げられ、唇が落ちる。唇、くちびる。じっとその一連の仕草を見ていたのに、一瞬置いてから顔に熱が急に、それは急に集まってきて、
「きゃう!?」
「……かわいいなあ、俺のマスター」
ばっと取り返すみたいに手を引いちゃったのに、気にする風もなく笑っているキャスター。よろしくね、ときれいに微笑むキャスターに、こちらこそ、と返した。
▼ 人間あんなの呼ばわりの上惨殺して死体が目に触れないよう転移してどっか捨てたキャスター