迷い込んだ先は

「今日も変わりないですね、黒うさぎさん」
「ああ、そうだな白うさぎ」

 対照的な色をした兎人がいる。
 黒うさぎは眼鏡越しに冷めた瞳で黒い木に凭れかかり数メートル先の真正面の白い切り株に気怠そうに座る白うさぎを見る。白うさぎはそんな視線には慣れているのか特に気にも留めずに名の通り白く長い耳を退屈だと訴えるかのように動かす。

「久しぶりに陣地取りでもします?」
「余計な体力は使いたくない」
「俺より体力あるくせにつれない」
「お前だってやる気はないだろ」

 白うさぎは「まぁそうですけど」とわざとらしく肩を下ろす。
 黒うさぎと白うさぎのいるちょうど真ん中。そこではっきりと黒うさぎ側は黒に、白うさぎ側は白に分かれている。それは彼らの互いの領域となっている。特別な手続きなどがなくても行き来は出来るものの彼らは基本的に互いの領域に入ることはしない。そしてその領域内にあるもの全ては黒と白で出来ている。黒うさぎの領域は黒を基調に、白うさぎの領域は白を基調に。その中で黒と白以外の色は兎人の肌の色と髪の色と瞳の色だけ。

「なんか面白いことないですかねー」
「随分と退屈そうだな」
「そりゃ刺激が少ないですから。ここって滅多なことじゃないと外部との接触とかってないじゃないですか」
「白うさぎは変わってるな」
「黒うさぎさんに言われたくないですね」

 はは、と笑いながら黒うさぎに返答する白うさぎの耳はまた動いていた。それに対して黒うさぎの耳はぴくりともしない。

「厄介事はない方がいいだろ」
「たまにはいいじゃないですか」
「本当に手持ちぶさたなんだな、お前」

 はぁ、と黒うさぎの小さなため息がやけに大きく響いたのはここにいる兎人は黒うさぎと白うさぎしかいないから。こうして話しているのも白うさぎの退屈しのぎに黒うさぎが付きあっているからであり、それ以外の時間は互いに互いの領域で互いの過ごし方をしている。
 白うさぎが退屈になるのも仕方のないことなのかもしれない。ずっと同じ話し相手、変わらない領域、外部からの干渉はまれに起こる【運】のみ。その【運】が起きたのも随分と昔のこと。

「はぁ…せめて黒うさぎさんがもっと俺寄りの兎人だったら良かったのに」
「それは運がなかったな、白うさぎ」
「黒うさぎさん相変わらず辛辣」

 からからと笑う白うさぎ。その時、滅多に動かない黒うさぎの耳がほんのわずかに動いた。

「…厄介事か」
「え?」

 黒うさぎがそう呟いた瞬間、彼らの領域のちょうど真ん中に一人の迷い人が現れた。

「……ここ、どこ?」

 その迷い人はモノクロのセカイに色をもたらした。