たぶん、朝方。いつもなら絶対にない、隣にある暖かなにすり寄ったのを、なんとなく覚えている。わたしの手は誰かの手としっかりと絡んでいて、離すもんかって思うみたいにその手を握り返したのも、記憶の縁でかすかに、でも確かに、覚えている、気がした。
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ふ、と、予感のように瞼を開く。ゆっくりと眠れたような心地よさと、体のだるさが同居している。わずかに身動ぎをすると、肌が直接布に触れるような感触に、疑問符が湧いた。じりじりと思考力を取り戻したアタマは、わたしの手が、しっかりと握られていることを理解する。肌の温度が重なりあう感触。すう、と心地良さそうに紡がれる、わたし以外の呼吸音。肌の違和感は、下着も着けずに布団に潜り込んでいるからだとわかる。隣に寝ている見知った顔も、見たところ何も着ていない。密着した肌は、お互いの体温を交換している。
ぴきん、と、心臓が固まって、ぼんやりしていた意識は完全に覚醒する。アルコールの名残で痛む頭はしっかりと動き出してしまって、昨夜のことを、お酒のせいで忘れたと、言えたらどんなによかっただろう。自分のしたことの全貌の輪郭はじわじわ蘇ってきて、記憶が鮮明になる反面、頭が真っ白になっていく。
羞恥、後悔、罪悪感。感情がごった返してぐちゃぐちゃになる。冷静になろうと静かに息を吐いたら、ずき、と腰が疼いて、ひとりで恥ずかしくなる。
やわらかく、わたしの手を握るその手から、そっと指を外していく。大事な後輩に何てことをしてしまったんだろうと思うのに、思ってるのに。繋がれた暖かさを手放すのが名残惜しくて、そんな自分の思考があさましくて、泣き出したくなる。
「……ごめんね、茅ヶ崎…」
ごめん、ごめん、ごめんなさい。じわじわと涙が出てきて、頬に触れそうになった自分の手を慌てて引っ込める。そっとベッドを抜け出して、シャワーに駆け込む。
シャワーを浴びながらもじわじわ崩れる涙腺が止められなくて、温かいお湯に誤魔化されたような気がしながら、ひたすらに泣き続けた。
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お風呂から出てひとまず置いてあるバスローブに腕を通す。軽く髪を乾かしてバスルームを出ると、茅ヶ崎がもう起きていた。ベッドの上で膝を立てて、そこへ項垂れるように頭を垂れている。わたしとしたこと、後悔してるのかな、そう思って、ずきん、と胸が重たく痛んだ。
「、っ先輩、」
頭を上げた茅ヶ崎と目が合って、余裕なさげに焦った顔をしている茅ヶ崎を見て、ほんのちょっとだけ落ち着けた気がした。
「……おはよ、茅ヶ崎」
笑えたはずなのに、茅ヶ崎がぐ、と眉間に皺を寄せて表情を厳しくする。茅ヶ崎は悪くないから、そんな顔しなくていいのに。
「先輩、すみません、俺」
「やだな、そんな顔しないでよ」
「……先輩、」
「気にしないで。初めてってわけじゃないんだし、お互いいい大人なんだから」
お風呂入ってくれば、と促して、目を逸らす。これでもかって気まずい空気をどうしようかな、と思っていると、茅ヶ崎がベッドから起きて、わたしのほうへと歩み寄ってくる。羽織った彼のシャツの隙間から、昨日見たグレーのボクサーパンツが目に入ってしまって、恥ずかしくて死にそうになる。「先輩、」昨日見た鮮やかな目の色がわたしを覗き込む。昨日の声が、キスが、触れた指先が、嫌って程に思い出されて、じわりと頬が熱くなっていく。
「俺、なかったことにはしませんよ」
真剣な目が、わたしをつらぬく。一瞬、呼吸が止まったみたいに、きゅう、と心臓が縮こまる。これでもかって、動揺している。「すぐ上がるから、待っててください」わたしに触れようとした手が、一瞬迷って肩に置かれる。清算を済ませて先に帰っちゃおうかな、と思っていた思考が透けて見られたようで。
茅ヶ崎のいなくなった部屋で、ふらふらとソファに崩れ落ちるように座っても。これっぽっちも落ち着かない。ぐらぐら煮えて揺れる思考はもう、何をどう考えたらいいのかすら分からない。ちょっとでも無心になれたらって膝を抱えてみても、茅ヶ崎がシャワーを使う音が耳に入るだけでもうだめで。息を吐いてもどうにもならない。持て余したこのこころを、どうしようかと重たい頭を抱えた。