くしゃくしゃになったスーツやシャツをなんとか着直して、時間に追われるように茅ヶ崎と安っぽいドアを出た。結局ホテル代は持たせてもらえなくて、せめてもの罪滅ぼしすらさせてもらえなかったわたしの心はぐらぐらと揺れるばかり。
外は昨日の夜が夢だったかのように、信じられないくらい明るくて。涙を零して乾いた瞳には眩しすぎて、茅ヶ崎の背中を横目にそっと眉をひそめた。きれいな青空がわたしを責める。
駅までの道のりがあまりに長くて、気まずくて。わたしは茅ヶ崎と歩幅を合わせずに、かれの半歩後ろをのろのろと歩く。本当ならいつも通りに歩きたいけど、今のわたしはこころも、足も重すぎて、ただただ早く駅に着くことを願うしかなかった。わたしの横で、わたしに歩幅を合わせようとしてくれている茅ヶ崎の優しさが申し訳なくて、痛くて。息ができない、くるしい。視点をどこにも合わせないまま、足元ばかり見つめている。わたしはこれからどうしたらいいんだろう。漠然とした問いはわたしのなかをぐるぐる回って、わたしの首を緩やかに絞めていく。
「先輩」
駅に着くと、どちらともなく脚が止まる。茅ヶ崎の声が、いつもより角張っている気がして、じくりと心臓が痛んだ。緊張、動揺、それとも嫌悪?茅ヶ崎の心が見えないのが苦しくて、そんなもの、今までだって見えたことなんてないのに。突然、茅ヶ崎が遠くに行ってしまった気がして。
顔が見れない、何を言われるのか怖くて、怖くて。ふと見上げた茅ヶ崎は、何か言いたげに、言葉を選んでいるかのように口を開けかけていたけれど、笑顔で遮って鞄の持ち手をぎゅっと持ち直す。
「じゃあまた、会社でね。気を付けて」
「待っ、先輩、」
手を振って、踵を返して、急ぎ足でホームへ向かう。茅ヶ崎の視線がなくなった瞬間、張り詰めていたものが全部解けてきて、すぐにでも泣き出しそう。ごまかすように歩くのを早くして、ぎゅっと唇を噛んで、持ち直す。茅ヶ崎は、同じ方向の電車だったはずだ。追いつかれないように、丁度ホームに滑り込んできた電車に飛び込んだ。
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わたしは、大切な後輩を失ってしまったのだ。わたしの軽率な行動のせいで。
家に帰って扉を閉めた瞬間、ぼろぼろ涙が零れてきて、靴も脱がないまま玄関に座り込む。自覚した恋心は、あっという間に枯れ死んでしまった。きっと、きっと軽蔑された。自分のせいだってことは分かってる。アルコールに浮かされて、優しい茅ヶ崎にもたれ掛かって、誘って。今となっては、どうしてあんな大胆なことができたのか、わからない。
茅ヶ崎がわたしを受け入れてくれた理由も分からなかった。あの時具合の悪かったわたしに気付いて連れ出してくれて、わらってくれた茅ヶ崎。
――もし、もし。体目的だったんだとしたら。そのままわたしを必要としてくれないかな、なんて思って、あまりの浅ましさにまた泣いた。