逃げるように、足早に。行ってしまった先輩を、引き留めることができなかった。結局俺の罪悪感は、先輩に一切届くことなく、俺の中に留まったまま。追いかければ間に合ったかもしれない。でも、俺の脚は動かなかった。ぼんやりと、小さくなる先輩の背中を、ずっと、目でだけ追っていた。あの一晩で彼女を手に入れたわけじゃないことなんて分かってるのに、喪失感が胸に爪痕を立てる。

「……はあ」

 俯いて、ぐしゃりと髪を掴んだ。ひとまず帰るために、俺も改札を抜けて歩き出す。



「(……先輩は、後悔してるのかな)」

 帰ってさっさとスーツを脱ぎ捨てて、オフモードになってからベッドに飛び込む。大の字で仰向けになって、片手間にソシャゲを軽くいじりつつ、物思いに耽る。目を開けても閉じても思い浮かぶのは先輩のことばかりで。ソシャゲを閉じて先輩とのLIMEを開いてみたって、その画面は、無機質にしんと静まり返ったままだ。

 すみません、と言った俺に、先輩は気にしないで、と言った。へたくそな作り笑顔を思い出すと、心臓が縮こまるような心地がする。
後悔、と言うよりは、俺のことを気にしているように見えた気がしたけれど。先輩が何を考えているかなんて、俺が考えたって分かるはずがない。

 どうしたものかと首を捻る。もし先輩が来週、いつものように俺らの秘密基地にやって来てくれるのなら、俺は腹を割って洗いざらい、先輩に話してしまおうと思う。というか、それが、俺のしなくちゃならないことだろう。

 凹んでいるのは本当に本当なんだけど、俺をかわいい、って言った先輩を思い出すと、何とも言えない気持ちになる。かわいいのはそっちだろって、顔を覆いたくなるくらいかわいい表情。夢を見てたんじゃないかって思うけど、俺が覚えている熱は本物で。俺は、この熱を思い出すたび、やっぱり、先輩を手に入れなくちゃって思うんだ。どうなるかなんて分からないけど、最大限、できることはやらないと、って。だって俺、こんなにあの人がほしいんだ。

 結論、俺は、先輩とどうあっても話をしないといけない。先輩が逃げても、俺がどう思ってるか言わなくちゃ終われないし、先輩の口から、ちゃんと思ってることを聞かなきゃ気が済まない。怒っているんだとしたら、俺が出来る限りを尽くして懺悔しなくちゃならない。

 先輩を抱いてたあの時、ビビらずちゃんと伝えておけばよかった、なんて、後の祭りもいいところで。もしあの時告ってたら、なんて、くだらないもしもの妄想が一人歩きしそうになる。
俺がやるべきことの結論は出たのにもやもや思考を繰り返す思考に無理矢理蓋をする。やることは決まった。だからもう、これ以上何か考えるのは止したほうがいい。無駄にネガティブな方向に行きかねない。とりあえずこの週末は脳死周回と心に決めて、ベッドから起き上がる。

 まさか、人生の一番の目的だったゲームを、考えことから逃げるためのツールとして使うことになるなんて。ゲームの電源をつけながら、ちょっとだけ笑った。