一定の距離を保つことが癖になっていた。それが当たり前で、誰も心の奥までは触れさせたくなかった。見せればそれが弱さになると思っていた。

「ゆら」

 それなのに、ゆらに触れられるのは何故か心地好かった。どうしてか、なんて考えるよりも早く体が動いたのは初めてだったかもしれない。
 引き寄せて、腕の中に。ゆらの形を確かめるように体温を、肌の質感を、香りを。ゆらの全てを感じ取ろうとするけど心までは把握しきれなくて。ああ、なんてもどかしい。こんな気持ち、知らなかった。

「チカ」

 そっとゆらの腕が俺の背中に回る。大丈夫だよ、と言わんばかりの優しい声色。俺よりも小さくて細くて、すぐに壊れてしまいそうなのにその声は、俺が惹かれた心は言葉にできないくらい強い。本当の意味での安心、という言葉を教えてくれたのはゆらかもしれない。
 抱きすくめるだけじゃ足りなくて、腕の力を抜いてそっと唇を重ねた。繰り返し触れるだけのキスをして、熱くなっていく唇に愛しさが込み上げて。もっと、ゆらがほしくなる。
 唇で唇を挟むようなキスをして、少し空いたゆらの唇の隙間に舌を潜り込ませて。歯列をなぞりながら指で耳の裏を擽る。歯と歯の間が空いた瞬間、もっと深くに舌を潜り込ませる。ゆらの舌を絡め取って、息をつく暇も与えないくらいのキスを。
 力の抜けていくゆらを支えながらゆっくりと床にしゃがみ込みながらキスを続けて。しがみつくゆらの手の力が強くなって、色っぽい吐息が耳に届く。

「…はっ、ゆら、」

 一度唇を離せばそこには涙目になったゆらがいて、俺がそんな顔をさせたかと思うと高揚感に似たそれが胸を熱くさせた。もっとその顔を見たくなって、掬うように、少し焦らすように唇を軽く数回噛んだ。

「チカ…んっ、もっと、」
「もっと?」
「…チカがほし、い」

 涙目で赤くした頬でそんなこと言って。ゆらは本当に俺を煽るのが上手い。…なんて、そうさせたのは俺のせいでもあるんだけど。
 キスを再開させてラグにゆらを押し倒して。キスの音と吐息だけが部屋の中に響いてなんていやらしい。キスをしながらゆらの服を捲り上げて、柔らかな肌に触れる。熱くて、ゆらが溶けそう。その熱で俺も溶かして。それで、今よりももっと深く交わって一つになりたい。

「…ゆら、好きだよ」

 もっと触れさせて。
 もっと俺に触れて。