わたしの知らない千景。千景の知らないわたし。
 殻にこもっていた千景の殻をたたいて、たたいて。またたたいて。ゆっくりとその殻を割って知らなかった千景を少しずつ知っていった。その度表情がやわらかくなっていって、気づけばわたしもつられるように笑っていて。その時「ああ、わたしって千景のことが好きなんだな」ってふと気づいた。

 気づいてから少し千景との会話がぎくしゃくするようになった、と思う。いつも通りに話しているはずなのに目を見れなかったりふとした瞬間に笑う千景の顔に言葉が詰まったり。思春期の恋でもないのに思春期の時よりも些細なことで一喜一憂してしまう。そんな自分に心が乱されて、たまに痛い。泣きたくもないのに泣きそうになる。怖い。千景との距離が近づけば近づくだけ、千景の分かりづらい優しさを知れば知る度に、わたしは千景を失うのが怖くなる。付き合ってもいないのに、なんて誰かは言いそうだけどそうじゃない。千景のいない生活がもう考えられないくらいにわたしの中で千景が大きくなってしまったんだ。

「ゆら最近何かあった?」
「え?」

 それは当然のことだった。色んなことに気づいてくれる千景がわたしのぎこちなさに気づかないはずがなかった。ごまかしてもきっとそれに千景は気づく。無言なら千景は気を遣って今の質問をなかったことにする。…どっちをとったとしても千景に心配をかけてしまうし、わたしもきっと眩暈を起こしたように心がぐらぐらに揺れる。
 なら、勇気を出して言ってしまおう。震えそうな手のひらを握りしめて、下に向けていた視線を千景に向けて、固まってしまいそうな唇に動けと何度も頭の中で訴えて。

「あ、のね」

 震えてしまうのも途切れてしまうのも今の状態なら仕方ない。でも思っていることを…心に留めていた言葉を真っ直ぐに伝えよう。

「わた、し…千景が、」

 千景は真っ直ぐにわたしを見てわたしの言葉を待っていてくれる。ああ、そんなところもたまらなく、わたしは…

「千景が、すき」

 言の葉に乗せた沢山の好きをどうか受けっとって。