君はひとつ、嘘をついた。
簡単に見破れるくらい分かりやすくて、とても君らしい優しい嘘。あまりに優しすぎて、悲しくなった。けれど、それすら愛おしくて、心があちこちとせめぎあう。分裂する時の痛みがあるとしたらこのくらいの痛みなんだろうか。軋む、軋む──
ああ、なんて痛い。痛みなんて慣れているはずなのに、忘れかけていたはずなのに…君はひどいな。こんなことを思い出させるなんて。
「ちか」
君が俺のことを呼ぶ度、痛みが増す。それは君が悪いわけではない。俺が君に嘘をつかせて、君に嘘をついている俺のせい。そう、全ては自分自身のせい。
化粧で誤魔化している目の下の隈も、不安や心配で揺れそうになる瞳も、声も。全て俺のためであって、俺のせい。
君に無理をさせてしまっているのが心苦しいのに、まだそれらをさせなければならない現状。
寄り添ってくれる君に、支えてくれている君に、想いを寄せている君に…俺は一体、何ができて、何を返せるのだろうか。
「ちか?」
「ん?」
言おうかどうか少し悩んだ君は口をあけて、小さく尋ねるように俺に言葉を投げた。
「…泣きそうな顔、してる」
きゅっと指を握られて、ゆっくりゆっくり君のぬくもりが俺を侵食してくる。これも痛みなのか、じくりじくりと胸が痛む。俺が泣きそうな顔をしているとしたら、それは君にそんな顔をさせてしまっているからだ。
ごめんも、ありがとうも言うことができず、それなのに俺は君を手放すことができない。…なんて、ずるくて、ひどい。
「(君と出会わなければ、なんて考えただけでも怖い)」
こんなにも大切になった君に対してそう考えることは失礼なのかもしれない。
俺は、この先にある限りの自分の時間を使って君にできうる限りの、精一杯の、このいびつな愛を優しく変換して伝えていきたい。
「ゆらの方が泣きそうな顔してる」
お互いの瞳に映るのはお互いの泣きそうな顔。
──ああ、これがいつか、できれば遠くない未来に心からの笑顔になりますように。
…何が、誰が、邪魔をしてこようとこの幸せというかたちをした君を守る。そして今はまだほのかに熱を帯びているふたりに共通する幸せは、この先大きく今よりも熱を帯びるであろう幸せは、絶対に壊させはしない。
そう、自分に強く強く誓う。