「ってな感じで千景さんに言っちゃったんだけどどう思う?」
「すご、先輩相手に喧嘩売ってんじゃん。頑張ってね」
「ゲームやめてちょっとくらい聞いてよ!」

 スマホに釘づけの至をべしべし叩く。ゆらさん痛いでーす、と間延びした気のない言葉ばっかりの至はほんとに役に立たない。敏腕商社マン全然役に立たない。結構強い言葉で喧嘩売っちゃったことを後悔してるわけじゃないけど、千景さん怖いし。職場の先輩なんだから、ちょっとくらい間に入ってくれてもいいじゃないか。

「ていうか先輩って女の子嫌いなんだ。意外ではないけど」

『女の子って嫌いなんだよね』
 刺すような冷たい瞳、鑢のように刺々しい声色。世界中の嫌悪を集めてきたような、分厚い壁を持った声。寒気がするくらいよそよそしくて、人生最上級ってくらいに、わたしを嫌いって思っていることが伝わっている声。

 だいたい何考えてるか分かんない人って苦手だし、嫌いって言ってきた人に真っ向から戦いを挑むなんてすんごい負け戦だし、正直どうしたらいいか分からない。

「なんだよ〜も〜…」

 女の子を遊び捨ててるって言われてもやってそう、って言われちゃいそうな見た目してるくせに。抱きしめていたクッションを放って立ち上がる。

「帰んの?」
「ゲームの邪魔してすいませんでした〜」
「おつ〜」

 ひらりと手を軽く振った至の視線はゲームに釘付けのまま。むかつく。ブルーライトと結婚しろ。しばらく至なんて無視してやる。むかむかするお腹をなんとかしようと、談話室へと足先を向けた。どうかわたしの癒しが居てくれますように。





『嫌いと言われた 仲良くなる』

 なんかアホらしい検索ワードだなあ、と思いながらスマホをタップする。ベッドで大好きなクッションを抱き潰しながら、さっきの至みたいにスマホに釘付けになる。『心理学』という字面を見て、千景さんてそういうのにも堪能そうだな、なんて思いながら、藁にもすがる思いでページを開いてみる。

 その一。自分の行動や言動を振り返る。
そもそもわたし何もしてないし、そこまで嫌われるほどたくさん交流もしてない。生物学的に嫌われている。頭を抱えるしかない。でももしかしたら、遠回しにそう言っただけ?わたしが何かしちゃった可能性、あるかな。ぐるぐる考えてみても思い当たる節はないし、とりあえず次。

 その二。嫌われた理由に納得がいかない時は話し合おう。
まさかの二にして早くも直球勝負。ていうか一応わたしこの手取ったよね。取ったよな。逃げたけど。きちんと話し合いの場を持ったとしても絶対言いくるめられる自信がある。はあ。すいすいとスワイプして三、四と見てみる。自分に非があるのならば素直に謝ろう、これからも相手と仲良くしたいという気持ちを伝えよう。しばらく画面とにらめっこして、そっとスマホを暗くして枕に顔を埋めた。

 でも、もし、もし。女性にトラウマがあるとか、ほんとに生理的に無理だとか、そう言う理由なら、近づかないほうがいいのかな。

「……はあ」

 目をつむる。萌黄色が、ちらりと目の裏で煌めく。どうしようかなと思うたび、重なってくみたいに思考が重くなっていく。



▽監督ちゃんが攫われる前だよな

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