ダンス、ダンス、ダンス!
意識が宙を泳いで、火花がぐらぐらと、真っ暗な意識の中で揺れている。なんだっけこれ、ああ、花火だ。あれ、わたし、花火見てたはずなのに。でも最後の一番大きいやつとか、楽しみにしてたのに見た覚えがないなあ。ぱちりと視界が戻ったら、千景さんと至のかおが見えた。
――
「せっかくの花火ちゃんと見れなかったし出店も結局閉まってて買ってもらえなかった」
ベンチに座っていたわたしは、自販機で買ってきたらしいペットボトルの水をほとんど全部飲み干してから、千景さんにおぶられぶうたれていた。せっかくお祭りに来て、せっかく花火を見に来たのに。人混みも苦手だけどせっかくだしって、かわいくおめかししてもらって、暑いけど出てきたのに。着崩れはどうしたって誤魔化せないし、疲れたし。腰いたいし。
「おんぶすれば着崩れしてること多少ごまかせるだろ」
「先輩がおぶるんですか」
「茅ヶ崎より力も体力もあるからね」
ふたりのやりとりに何も口を挟まないまま、直されてはいるけどところどころ行為のあとが残る浴衣を見て、恥ずかしくって仕方がない。
文句は言いたいけど、とろかされて、受け入れてしまったのだって事実で。思い出したくなんかないのに、必死にしがみついて、応えてしまったことは認めざるを得なくて、このまま溶けてしまいたいと思う。おぶられて、千景さんに触れているところに籠る熱すら恥ずかしくて、花火になったみたいに顔が暑い。いっそ打ち上げられて消えてしまいたい。
莇がせっかくやってくれたメイクは落ちたし(たくさん落とされた顔への口つけを思い出して目眩がする)、髪だってぐしゃぐしゃだし、浴衣は着たまましたみたいだけど恥ずかしいし着たままって言ったって乱れてるし(千景さんが多少直してくれたらしい、ほんとうに千景さんは何でもできる)、髪につけているアクセサリーがしゃらしゃら言うたびに、揺さぶられていたときのことが思い出されて、ああ、もう、だめだわたし。
「はあ……」
「ゆら?暑い?大丈夫?」
千景さんのやさしい声も、そっと横からわたしの髪を撫でる至の手も。わたしをどうしようもなくじりじりとさせて。暑さと湿気が混ざったような濃い夏のにおい、体を預けている千景さんのにおい。焦がされてるみたいだ。フライパンの上の卵になった気分になって、茹だる思考に蓋をして目を閉じた。
――
「何で?」
いつの間にか微睡んでしまっていたらしいわたしが至の声で目を覚ますと、何故かわたしはホテルにいた。大きいベッド、わざとらしいくらいの明るい部屋のつくり。てっきり寮に帰るものだとばかり思っていたから、目に入ってきた色彩に混乱する。「三人って断られるところもあるみたいだよな」「何も迷惑なんてかけないのに酷いですよね」とか喋っている二人に言葉を求めようと視線を向ける。千景さんと目が合って、千景さんはにっこりと綺麗に笑った。
「その格好で帰りたかった?」
「…………」
一瞬でシミュレートされる。乱れた服とメイクそれに髪の毛、おんぶされたわたし、幸ちゃんと莇とは確実に目を合わせられないし、その他のメンバーとだってそうだし、向こう三日部屋から出られない。でもこれでここに泊まったとしても、わたしたちが帰ってこなくて「ああ……」ってなるメンバーが絶対に絶対にいるしどっちにしろわたしには籠城の未来しかないじゃないか。
「お風呂入る…」
「ああ、入れてくる。座って待ってて」
「お願いしま〜す」
「ゲームしてないでお前がやれ茅ヶ崎」
お言葉に甘えてベッドに戻る、千景さんが出ていく。ベッドに座りなおしたら、携帯から顔を上げた至の睫毛が近づいてきて、小さな音を立ててちゅうされた。目が合うと甘い顔で笑うから、顔があつくてしにそうになった。
――
わたしが沈みそうな気持ちで最初にお風呂を貰った後千景さんが入って、今は至の番。薄っぺらいホテルのバスローブを身に纏っただけでぼうっとベッドにいると、千景さんがドライヤーを使っている音が聞こえてくる。膝を抱えていると、どんどん眠気で瞼が落ちそうになってくる。もう寝ちゃってもいいかな。そう思うと一気に眠くなる。夏特有の、暑いときの倦怠感。ぼうっとした視界を閉じようとしたら、ぎしりとベッドが揺れた。
「眠い?ゆら」
「千景さん…」
そうっと輪郭を撫でる手が心地よくて、そっと目を細める。首を撫でられて薄く声が出るのが恥ずかしい。首をすくめると両頬を持ち上げるように千景さんの手に掬われて、口がふさがれる。
「んん、」
千景さんはキスがうまい。キスしながら耳をなぞったり、首に触れたり、わたしのきもちいいところを、余すことなく把握されている気がする。いろんなところから熱を与えられて、わたしに許されるのは必死に酸素を取り入れることくらい。縋る手は千景さんに捕まえられて、体を動かす権利すら、千景さんに明け渡してしまったような気持ちになる。
どさ、と体が重力で沈んで、いつのまにかベッドに背中をつけていたと気付いたころには、わたしに抵抗の選択肢なんて残されていない。
「や、ちかげさん…」
「ごめんね、寝かせてあげる気はないかな」
つ、と首を伝う千景さんの指が、さっき外でつけられたキスマークに触れているんだって分かって、顔が熱くなる。
「やだ、眠い、寝る…!」
「寝れるなら寝てもいいよ」
「あ、ちょっと先輩抜け駆け」
ああ、もう。部屋に入ってくる至の姿を見て、このあとのことを想像してしまうわたしが、あんまりにもあさましくて、きらいだ。