「ねえ今夏なの、わかってる?」
半袖でもぎりぎり首のある服を引っ張り出してきて着込んでいるわたしの服の下。首の付け根の両側や鎖骨やら、わたしのからだには痕がたくさん残っていて、とても首のあいた服なんて着れそうにない。ねえ、と凄んでみるとちょっとだけ至の体が揺れた。口をむにゅむにゅさせている至とは目が合わない。千景さんはわたしが視線をやると目を合わせるけれど、その瞳は透明だ。この。
「首のある服暑いし」
「……」
「結局わたしなんにも食べられなかったし」
「……茅ヶ崎」
車出せるな、と千景さんが言う。「はーい」と返事をする至。
わたしのコンディションはというと。お化粧ばっちり、服もばっちり、鞄もばっちり。ほくそ笑んで、千景さんにバッグを差し出して、ふたりの腕に飛び付くように抱きついたら。諦めたような、呆れたような、優しい顔でふたりは笑った。お好み焼きの敵、クレープの敵、ベビーカステラの敵。食べ物の恨みは怖いのだ。
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「ねえこのスキニー形どう?」
「あ、このサンダル買う」
「ねえこのワンピ秋まで着れるよね」
「鞄ほしい…」
「まだ買うの……」
ショッピングモールに来てから三時間ほど。二人の手を引いて、行きたいところへこれでもかと連れまわした。休憩に入ったカフェでコーラを摂取しながら、至はげっそりしながらもソシャゲをしている。アイスコーヒーをちまちま千景さんは何も言わないけど、たぶんそれが疲れている証拠だと思う。異種返しはこれくらいでいいかなあ、と思うけど、二人揃ってこんなにぐったりしてるところなんてめったに見れないから、ちょっと楽しくなってしまう。
「首のある半袖見つけられてなくて」
「………」
「………」
何とも言えない顔でわたしを見るふたりが可愛い。文句も言えないし、わたしに言われるがままだし、なんだかお姫様にでもなっちゃった気分。すみません、と店員さんを呼んで、ケーキもオーダーする。至にも一口、千景さんにも一口あげるんだ。楽しくて楽しくて、頬杖をついてにやにやする。ケーキ食べ終わったら、二人にはここで待っててもらってもいいかな。「あ〜報酬キタコレ〜…」へろへろとガッツポーズをする至を見ながらそう思った。
ゆらが食べな、ときれいな笑顔でケーキから逃げて席を立った千景さん。まあ先輩だし、と携帯から目を離した至はくつりと笑って、その分を寄越せとばかりに口を開けた。至の口にケーキを突っ込んで、あとは何買おうかな、と思考を巡らせる。二人もだいぶ疲れてるし、最短距離で終わらせて帰りたい。お店の間取りを思い出して、めぐる順番を考える。
「ただいま」
「あ、おかえり、千景さん」
「はい、ゆら」
するりと手渡されたのは、外の紙を剥がされた絆創膏。本当にびっくりして見上げると、ゆるく口元に笑みを湛えた千景さんがいる。
「……ばれてました?」
「まあね」
絆創膏を受け取って、そっと足に手を伸ばす。ヒールのあるサンダルで、靴擦れしていた足。絆創膏持ってなかったし、気づかれないようにって思ってたんだけどな。どこかで買ってきてくれたのであろうそれを、そっと撫でる。
「…ありがとうございます、」
「どういたしまして」
千景さんが席について、頬杖をついてまた笑う。甘い表情にちょっとだけどぎまぎしていると、視線を感じて慌てて至のほうを見ると、ジト目の至がいた。
「蚊帳の外ワロタ」
「ドンマイ」
「先輩やっぱチートすぎません?ずるい…そうやって好感度上げる…」
「ふふ」
「ゆら笑うとかヒドス」
「今日いっぱい荷物も持ってくれたし、車も出してくれたじゃん」
「アッシー君だな」
「ひっど」
「そんなんじゃないよ!?」
結局一人で行こうと思った最後の買い物にも、二人とも付いてきてくれて。ふたりは漫画みたいに袋をいっぱい持って、そんなふたりの腕を片方ずつ取って、ばかみたいに笑いながら寮に帰った。