いつ意識を飛ばしたのかもわからないくらい、長い行為だったような気がする。
「この間、茅ヶ崎とはどんなことしたの?」
至と、どんなこと。
脈絡なく、突然投げ掛けられたその疑問符に、わたしは追加の情報を得ようと顔を上げて、千景さんを見る。ぱちり。切れ長の目と視線が被さるくらいでは、彼が何を考えているのかは分からない。ふわりと咲くように、艶めく笑みを浮かべた千景さんは、わたしの頬を撫でて口を開いた。
「ふたりでしたんでしょ?」
その言葉が何を指すのか、わからないほど鈍くはないし、ごまかせるほど器用じゃない。現にわたしは血の気が引くような、血液が沸騰するような、相反する感覚をまとめて味わう。
「あ、あの、ちかげさん、」
「はは、頬あつい。別に怒ってないよ。何したか、茅ヶ崎に聞いたしね」
しかももう情報漏れてるじゃん、とか、ペットを愛玩するみたいに顎を爪先でくすぐられるのくすぐったいです、とか、そんなことを言わせてもらえる余裕はなさそうで。
「……茅ヶ崎とはして、俺とはしてくれない、なんてこと、ないよね?」
言いながらわたしを押し倒す千景さんは、かちゃりと眼鏡を外して。切れ長の瞳が獲物を見つけたみたいにするりと細められて、ぞくりと背中に走ったのは、寒気なのか期待なのか。欲に濡れた千景さんの目はひどく色っぽくて。「口、開けて?」言われるがままそっと口を開けると、優しく口付けられたあと、するりと舌が入ってくる。
「ふあ……んん、ふ、」
舌が合わさって、絡まって、くらくらする。酸素を欲して口を開けると、ますます千景さんに食べられる。くちびるの境界が分からなくなってしまうんじゃないかって思うくらい、思考の隙はもうほとんどなくて、キスに応えるので精一杯なのに、千景さんが肌をなぞる指の感触はやけにクリアに伝わってきて、ぞくぞくと感度を上げてゆく。
腕を軽く撫でて、ウエストをなぞって、浮いた背筋をくすぐる。するすると優しく触れられているのに、どんどん感覚が鮮明になる。ふわふわと鳥肌が立って、声の甘さが増していくのが分かって、はずかしい。ぱちん、とブラを外す音がして、我に返ったように熱が上がる。
「ちかげ、さ、」
「ん?なあに」
穏やかに、わたしの抵抗を和らげようとするみたいに、髪を撫でて、柔らかい声を降らせる千景さんにどきどきするわたしが悔しい。撫で付けられて、キスされて。露にされた胸の先をきゅうと摘ままれると、待っていたとばかりにわたしのそこは反応してしまう。
「ひゃ、あ」
「……随分付けたな、茅ヶ崎」
わたしの体のあちこちに残る痕を、なぞりながらじっと見つめられる。居たたまれなくて、「千景さん、」視線をこっちに向けてもらおうと思って呼ぶと、「ん?」穏やかな視線は一瞬わたしに向いて、すぐにわたしの肌へ埋まる。
「あ、いっ……!」
少し痛みを伴うくらい強く。千景さんが左胸の上の辺りに吸い付いて、濃い鬱血の痕が見える。
「……妬けるな。ゆら、茅ヶ崎だけに、かわいく鳴いたの?」
「あ、あう、ちか、さ、」
低く囁かれて、耳に歯を立てられる。そうしてそのまま舌が伝って、下へ、下へ。べろりと尖りを舐められて、やわらかく噛まれて。千景さんの手はきもちよさとくすぐったさの狭間くらいの強さで、するするとわたしの肌をなぞっている。肌に触れないか触れないかの手つきにぞくぞくして、たまに皮膚を引っ掻く爪先に大袈裟にびくついてしまう。
耳を吸ったり、指を舐めたり。たしかに刺激は与えられているのに、決定的に触ってはくれない。曖昧な愛撫のせいでからだはじくじくと熱ばかり溜めていく。
「ふああ、あ」
千景さんの唇が首筋をなぞっただけで、大きくのけぞって声をあげてしまう。千景さんと睫毛が触れあいそうな距離で目が合うと、楽しそうに笑われる。
「ちかげ、さ」
「焦れったい、って顔してる」
言葉に気を取られていたわたしにふいに。下着を脱がさずに上からするりと濡れたそこを、撫でられる感触がした。
「んああ、っ、あ……?」
びっくりするくらい大きい声が出てしまったわたしにたのしそうな笑みを向けて、わざとらしく芽のまわりをくるくると、千景さんの手がなぞる。千景さんの指が気持ち良いところにかする度、どんどん熱が溜まって、もどかしくてたまらなくなる。下をなぞる手も、色んなところにキスを散らしていく唇も、わたしを焦らすばかりで。行き場のない快感は視界を潤ませて、熱い頬の輪郭をなぞるように、涙が溢れた。
ふう、と耳に息を吹きかけられて声が出てしまって、わたしの熱を助長させていく。耳に直接吹き込むようにリップ音を立ててキスをされて、耳を吸い上げられる濡れた音がする。ぴくりと反応してしまうたびに、千景さんがわらう。するすると肌を伝う手も。吹き込まれる甘い声も、行為と似つかわしくないくらい柔らかいキスも、全部全部いじいわるで。
「ち、かげさ」
「ん?」
「やだ、も、さわって、くださ」
「どこを?」
「っ、」
千景さんの手が太ももをなぞる。爪先でつう、となぞられて、じわりと濡れるのがわかった。もうくるしくてくるしくて、はずかしいとかそんなこと、考えられなくなる。くるしい、あつい。籠った熱は涙になって、一筋そっと流れていった、とおもう。そんなこともわからなくなるくらい、頭はぐちゃぐちゃだ。
「下、さわって、おねがい、」
涙声の懇願に、千景さんは目を細めてわらう。濡れた音を立ててなかに指が入ってくる感覚に、体も喉も勝手に震えた。
「ひあ、あ……っ!」
「ゆらの中、きゅうきゅうしてる」
「あっ、ああ、きもち、い、あ……っ」
突然与えられる確かな刺激に、びくびくと揺れる体が止められない。焦らされた体はようやく与えられた快感を貪欲に拾ってきて、「腰、動いてる」そう言ってするりと側腹を撫でられるのが恥ずかしいのに、それすらもきもちがいい。気持ちいいところばかり擦られて、余裕なくどんどん熱が上がって、息ができないほどになるのに。
「っ、は、ぁ……?」
つぷ、と指がゆっくり抜かれる。もう少しで上り詰められそうだった体は置き去りにされて、熱だけ残された体が不安でたまらなくなる。すっと熱を失った体のせいか、ぽろぽろと堰を切ったように涙まで溢れだしてくる。千景さんに縋りついて、近づいた肌にキスをして。
「やだ、もう、いきたい、ちかげさん、っ」
「どうしてほしい?」
「ちかげさんの、いれて、おねが、」
手を伸ばして、下着の下、ちゃんと立ち上がっているそれに手を添わせる。くっと力を入れるて握ると千景さんが眉をしかめて、少しだけ声を漏らした。色を秘めた声が色っぽくて、そんな声を出してくれるのが嬉しくて、そっとそこを撫で上げて、そっと下着に手を入れる。少しだけずり下がった下着を脱がせようかを思っていると、手首を掴まれてベッドに縫い付けられてしまう。口を奪われて、「いい子で待ってて」優しくて色っぽい声で吹き込まれれば、そのまま身を丸めているしかない。下着を脱いで、わたしのほうへ戻ってくる千景さんを見るだけで、頭がくらくらする。
「ほら、足、開いて」
「あ、」
「挿れるよ?」
「あ、ひ、ひ、あっ…」
ゆっくりゆっくり優しく解すように、千景さんが挿入ってくる。とん、と奥に擦り付けるようにされて、頭が真っ白になった。千景さんに脚を巻き付けて、快感に耐えながら千景さんが動けないように必死に力を入れる。
「……かわいい、ゆら。いっちゃったの?」
「ひあ、あ…っ」
「いっぱい焦らしちゃったから、お詫びにたくさんイかせてあげる」
「や、待っ、」
がつがつと揺さぶられて、どんどん意識が白んでいく。気持ちよすぎてこわい、なんて思ってたのは一瞬で、快感で揺らいだ思考はぐらぐら煮えて立ってゆく。「もっと、」って、千景さんの首に手を回した。色っぽくわらった千景さんは、わたしの舌に噛みついて、酸素を奪って、指を絡ませて抱きしめてくれた。
「っうあ、あんっ……!や、ちかげしゃ、」
「……っ、ん、またイく?」
「あっ、は、ああ……っ!」
痙攣みたいに勝手に体ががくがく揺れる。待ち望んでいた快感はわたしをどんどん蝕んで、きもちいい、きもちいい、って、そればっかりになっていく。語尾にハートを飾ったみたいに甘ったるい声が出るのが恥ずかしいと思う思考が、どんどん遠くなっていく。
「ちかげ、さぁん……っ」
「……はは、かわいい」
奥を目掛けて、きもちいいところばっかりを、一定のリズムで擦られる。刺激があるたびにはあ、と息を吐かなきゃいけなくて、どんどん頭がぼやけてくる。優しい抽送からだんだんと、腰から突き上げる激しい動きになって、肌がぶつかる音が遠くで聞こえる。
「は、っは、あ、っ!」
ことばを失う。一定のリズムで押し付けられる千景さんの熱に合わせてなんとか息をして、顎を上げて必死に酸素を取り込んで。きもちよさに体を預けていると、一気に抜かれる感触がして。確認するみたいに千景さんのほうを見ると、汗をぽたりと顎から垂らして、熱を帯びたかおをした千景さんが意味深にわらう。は、と熱い息が耳元にかかって、「捕まっててね」さっきより確実に力強く、腰を支えられる。ちかげさん、と呼ぶ前に、ギリギリまで抜かれたそれが、思いっ切り奥まで入ってきて、
「ッ、あ、−−ッ!?」
勝手に腰が逃げる。びくびく揺れる体は押さえつけられて、まだ快感を処理しきれてないわたしをよそに、千景さんはわたしの顔にたくさんキスを落とす。
「……さ、あと何回イけるかな?」
「っ、ま、って、しんじゃ、ッあ…!」
なにもかも限界だって思うのに、千景さんが与えてくれる快感を、わたしの体は忠実に拾っていく。ぐちゃぐちゃの意識すら保てなくなって、ただひたすら声を上げるだけになって。わたしはいつの間にか意識を手放していた。