「たるち〜」
ゆらが寮の前でしゃがみこんで目を合わせて犬と戯れている。大きい犬、ゴールデンレトリバーとかだろうか。犬が首をかしげると、鏡合わせのようにゆらも首をかしげる。なにしてんのあの子。かわいくて写メったところを、シャッター音でゆらが振り向いた。
「あ、本体が帰って来たよ」
「本体?」
「こちらたるちかっこ仮くん」
「いや、首輪してんじゃん。飼い犬でしょ」
「分かってます〜、ねーたるちくん」
「わん」
「わんじゃないよ。自分の名前じゃないのに返事しないの」
俺も横にしゃがみこんでみると、つぶらな瞳と目が合う。邪気がないな、ガチャで手借りたら来るかな。犬の手も借りたい俺の引き。はっはっと尻尾を振りながら俺に愛嬌を振り撒く顔をじろじろ見てたら、ゆらがたるちって付けたのもわかる気がしてくる。
「似てるでしょ?色とか。目もたれ目っぽいし」
「うーん、まあ」
つけている赤い首輪を点検してみても、名前らしき文字は見つからない。暫定たるち(仮)にするしかないか。たるち二号とかのが良くない?ついでにわさわさと頭を撫でてみると気持ちよさそうに目を細める。……かわいいな。
「かわいー」
「飼い主探しはいいの?」
「うーん、もうちょっと…わ、たるちくん待ってくすぐったい!」
ゆらがたるち(仮)に顔じゅうベロベロ舐められていると(かわいいって思ったの撤回しようかな)、慌てて走ってきた飼い主さんがやって来て、無事たるちくん(仮)は家へと帰っていった。名前はタロウと言うらしい。タロウて。
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「…なんか至ご機嫌ななめ?」
ほかったゆらが俺の部屋に入ってくる。ソファに寝転がってソシャゲしてた俺は体を起こして、手を引いてゆらをベッドに連れていく。ご機嫌ななめだと思っているからか、ゆらは拒むことなく素直についてきてくれる。
「どしたの?ゲームは?」
「いい」
「重症だ。どしたの」
ベッドに座ってゆらの肩に頭を乗っけると、くしゃくしゃと髪を撫でてくれる。その手が離れそうになって、もっと、とねだると、今度は両手でわしゃわしゃされる。たるち(仮)にやってたみたいな手つきに、癒されたような、ちょっとせいせいしたような、そんな気持ちになる。
「…至くんは、もしかしてたるちくんにやきもち焼いてたのかな?」
「…そうなのかな、そうかも」
「かわいいね」
ゆらはくすくすとかわいい音で笑う。かわいいな、俺なんかよりゆらのほうがずっとかわいい。もっと俺にも笑ってほしい、さわってほしい。足りなくなって、頭を上げて、まるい頬にそっと唇を残した。
「じゃあもっと甘やかしてもらおうかな」
後頭部を支えながら押し倒す。目を丸くしてされるがままのゆらの頬を撫でるようにキスをする。
「至の甘えんぼ」
「たまにはいいでしょ?」
鼻先をくっつけてキスを繰り返す。頬にも、額にも、いろんなところにキスを散らして。ゆらは油断してるのか、安心してくれてるのか、すっかり体の力を抜いている。隙だらけの唇を割って舌を絡ませたら、唇の隙から高い声がして、分かりやすく体が跳ねた。こういうキスは、しないと思ってたのかな。ほんと、隙だらけで可愛いね。
「ゆら、びくってなった。可愛い」
唇を離した一瞬に目を合わせて囁くと、ゆらはぎゅっと目を瞑って、体に力が入って縮こまる。きっと恥ずかしいんだろう、かわいい。抵抗しようともぞもぞ動く両手を捕まえて、手首をベッドへ縫い付ける。「ゆら、すき」思うままに耳元でそう言うと、ぴくりと震えて力が緩む。
ゆらの呼吸さえ俺のものになってしまえばいいのに。噛みつくようなキスを繰り返していると唾液を飲み下す音がして、ぞくりと背筋が粟立った。ふ、と唇を離して額にも唇を落とす。溜まっていた息をつくゆらの目が濡れていて、非難する目が俺を刺す。
「…わたしの思ってた甘え方とちがう…」
「どんな甘え方だと思ったの?」
隣に寝転んで、ゆらを見つめる。むっと唇を突き出しているのは、キスしてってことなのかな。多分違うのは知ってる。
「なんかこう、わしゃわしゃー、みたいな」
「あいつらベロベロ舐めて甘えるでしょ。ゆらもベロベロされてたじゃん」
「ベロベロ……」
「もっと舐めていいならするけど?」
「ベロベロされちゃうのかあ…」
おかしそうに笑うゆらの首筋を、思い切り舌を出して舐める。お風呂上りのゆらは、洗いたてのいい匂いがする。心なしか甘い味がするような気がして、俺はたいがい重症だな、と思う。
「ひゃん!?」
「ベロベロしていいんでしょ?」
「ひん…!?い、いいとか言ってない、待て!」
耳の縁をなぞるように舐めると、高い声が上がる。唇の音を押し込むように耳に口づけるとまたかわいく鳴いて、体がどんどん熱くなってるのがわかる。
「ゆらさ、もしかしてキスでえっちなスイッチ入っちゃった?」
「ばっ……!?」
必死に俺の肩にしがみついていた手がそのまま肩を叩く。俺を睨むその姿が小型犬みたいで、かわいくて笑ってしまう。
「入ってない!」
「そう?だってゆら可愛い反応するし、体熱いし。俺犬じゃないし?」
待てなんて聞かないよ、と。耳に吹き込めば分かりやすく肩が震える。ついでに耳の上の方に歯を立てればまた肩に置かれた手に力が入る。かわいくてかわいくて、食べちゃいたいよ、ゆら。
「いたる…」
「ね、俺のこともちゃんと、可愛がってね。ゆら」
まあ、かわいがるのは俺だけど。ご主人サマが浮気しないように、肩口に軽く歯を立てて、首筋に吸いついた。首輪の変わりにたくさんマーキングしておこう。そう決めて、何か言いたげな唇を塞いだ。