魔法界



この学院は魔法で全てが決まる。

どの魔法をどこまで使えるか、それによって待遇が随分変わる。
と言っても、どの魔法を使えるかは生まれた時から決まっている。だから変えることはできない。でもその上で、自分の魔法をどこまで磨き上げて、どう活かすかで使い道は増えていく。


私も、自分だけの魔法でたくさんの人を笑顔にしたい。


「セレネさん!!!」

『……わっ』


頭に感じる軽い衝撃。そのまま倒れ込む体。
視界がぐわんぐわんする。


「もお!また何か考えてたわね!」

『…ごめんなさい』

「実技の時は魔法に集中しなきゃダメよ!」


数枚集まってくれて、私の無事を確認してから喝を入れられる。
ムッとした顔から、呆れ顔に変わって、さらにくすくすと可愛く笑う彼女たち。

世の中には、自分よりも地位の低い者を嘲笑う人がいる。
でも、この学院の人たちはみんなすごく優しい、それに可愛くて魔法も上級レベルを使いこなせている。完璧な人たちなのだ。


『……ぶっ!』

「きゃー!セレネさん!」
「また頭に当たったわ!」
「頭割れちゃってる〜!」
「血が止まらない〜!」
「治癒魔法使える人〜!」
「いっそ瀕死にして復活した方がはやくない?」


私も彼女たちみたいになれるのかな。


これが日常。魔法の実技は好きだけど苦手で、10歳までには三種全て使えるのが一般的なのに、私はまだ20近くなのに一つしか使えない。
使える魔法も重力で、これがまた、、


『ふぬぬぬぬ』

「がんばって〜」
「集中してっ」


重力魔法が使える人が集まって、それぞれ実技を行う。まずは自分にかけられている重力を操る。これは本当の初歩の初歩。

次に、触れている者の重力を加えたり差し引いたり。これは自分の重力を操るよりは一段階上だけど、重力魔法を使う者なら誰でもできる。

そしてその次が、少し離れたところの物を対象とする。触れていなくても対象の重力を操るのが、次の段階なのだが、


「あ〜!惜しい!」
「魔力は感じるのに」
「ほんと!惜しかったね」


私はこれができない。
魔法も一種類しか使えない上に、その魔法を使いこなせていない。

所詮私は、落ちこぼれなのだ。

でも私だけが一つしか使えない、というわけでもなく、10人に1人ぐらいの割合で、一つか二つしか使えない人もいる。
だからって威張ることじゃないけど。
そんな私を蔑むことも見下すこともなく、励ましてそばに居てくれる学院のみんなは、本当に良い人すぎる。いつか私の魔法でみんなにも何かしてあげたいけど、私ができることなんて体重を軽くして空を飛ぶぐらいで。そんなことこの学園で出来る人は沢山いる。
重力じゃなくても、風魔法、サイコキネシス、浮遊魔法、空気魔法その他もろもろ様々な種類があるから、その中で重力がすごい!なんてこともない。

実技の授業は自分の魔法を試すもので、模擬戦闘もある。魔法以外の使用は一切禁止するものと、武器使用可能の二戦あって、私は後者が好きだ。
私の魔法だと前者は確実に何もできない。自分の体重を最小限に軽くして避けまくっても、相手の魔法の応用の方が遥かに上で、余裕でKOされてしまう。
それに比べると、武器使用は持ってる時は軽くして、攻撃の時だけ相手に当たる部分に重力を加算すればそこそこなダメージになる。

落ちこぼれの私でも、この戦闘形式だけは唯一、一般的に戦えるわけだ。もちろん無敵ではないし、普通に負けたりもする。
あくまで一般的なレベルになれるだけである。
だから私はよく模擬戦の時は死にかける。気を失って、意識が戻った時には身体は元通りだけど。

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