「本当に綺麗な人ねぇ、ホウエン地方のリン博士」
「噂じゃ、ツワブキコーポレーションの御曹司と御付き合いしてるだとか!」
「まあ、絵に描いたようなカップルってそういうことを言うのね〜」
タマムシのマダム達はそう言いながら通り過ぎた。僕はその様子を見ながら、コーヒーをすすって少し笑みを浮かべた。
「そうなりたいねえ……」
渦中の人物、リンが出版したブリーダーのための指南書はベストセラーになっていて、今や書店で置いていないところはない。タマムシ大学に講演に行くと言って、僕もカントー地方に仕事があったのでお茶でも、と誘った。これまでのパパラッチにすっぱ抜かれたのはほぼ僕の仕業と言ってもいい。わざと撮らせていると言っても過言ではない。それくらい、リンちゃんが昔から欲しかった。
「お待たせしました、ダイゴさん!待ちました?」
「ううん、僕も今ついたところだよ」
と言っても、緊張からかかれこれ1時間前からはここにいるのだけれど。ここはタマムシデパートの近くにあって目の前が美しい公園が広がっている雰囲気のいい喫茶店のオープンテラス席だ。
2杯目のコーヒーと頼むと同時に、リンちゃんのケーキセットもオーダーした。
「ダイゴさんっていつもおしゃれですよねぇ」
「今日の取引先の人に勧められたんだよ。気に入ってくれたみたいで、よかった」
ふふっとリンちゃんは微笑んで、それで、と話を切り替えようとすると、リンちゃんのバッグから突然ポケモンが出てきた。色違いのイーブイだ。最近になってようやくリンちゃんの珍しいポケモンには慣れてきたが、やはり店内はざわついた。
「あー。今日の講演で使ったんです。人懐っこくていい子なんですよー。」
「その様子だとすぐに進化しそうだね」
「そう、それが困ってて…あまり道具とか持たせたくないんですけど仕方なくかわらずの石持たせてるんです」
リンちゃんの膝の上でくるまってすやすやと眠る色違いのイーブイにリンちゃんは苦笑していた。
「リンちゃんの故郷ってマサラタウンだったっけ。」
「そうですよ」
「寄らないの?」
「オーキド博士にはさっき大学で会いましたし…あの2人もどこほっつき歩いているかわかんないですし、ね」
ご両親は、という質問はリンちゃんの口からでないということはたぶん失言になると思って口をつぐんだ。あの2人とはマサラタウンの伝説にもなっている2人の事なのだろう。リンちゃんは自分は落ちこぼれだと言い張ってるけども、今で一番有名なのはたぶん彼女だったりする。
「それに、今日もうホウエンに帰らなきゃいけなくて。明日も講演があるんですよ……」
「多忙だね」
「ダイゴさんに言われたくないんですけど」
上品に食べ物を口に運ぶ仕草に目を奪われて、返答するのに時間がかかった。リンちゃんにあまりジロジロ見ないでと恥ずかしがられたけど、今まで「私なんて田舎出身の貧乏人ですよ」という発言が本当とは思えなくて。
「リンちゃん、僕に結構嘘ついてるでしょ」
と言うと、リンちゃんは「そんなことないですよ?」とさらりと否定した。
リンちゃんと出会ってもう3年、片想いは順調に継続中だけどやはり彼女の手の内って感じだ。
「ダイゴさん、今日ホウエン帰りませんか?」
「特に用事がないから帰ろうかなって」
「ご一緒させてもらっても大丈夫ですか?」
行きも乗せてもらってすごく申し訳ないんですけど、と両手を合わせて上目遣いする彼女に僕の答えはもちろんyesだ。たぶん僕が断っても代わりはいくらでもいるのだろうけど。
「本当にポケモン持たないね、リンちゃんは」
「…逃げていっちゃいますから、ね」
少し影のある答えにダイゴは疑問を抱かざるを得なかった。膝にイーブイを乗せといて、逃げていくとは。リンちゃんについて知らないことなんて数え切れないほどだ。
「リンちゃん、ポケモン持たないなら僕を使って。危ないから」
「そんな、チャンピオンさんを連れ回すなんて恐れ多いです」
「君が心配なんだよ。野生のポケモンに出会ったらどうするんだい」
「吹き矢で鎮静剤を打ちます」
「その発想はなかったよ……」
リンちゃんはそうですか?とケロッとしていた。多分その様子だと何回かやったなと思い、はあと深いため息が出る。危なっかしくて仕方がなくて、その心配が消えるくらいなら僕が用心棒になってもいいと思った。
「リンちゃん、僕は君の特別になりたいんだ」
「ダイゴさん、それ口説いてるって世間では言うんですよ」
「口説いてるんだけど」
「な……女たらしです」
なぜそうなる、と言い返そうとするとリンちゃんはいつの間にか顔が真っ赤になっていた。今までとても綺麗な人だと思っていたけれど、それ以上に可愛いと思ってくくっと笑ってしまった。じろっとリンちゃんはこちらを睨む姿さえ可愛く感じてしまう。
「リンちゃん、いい加減3年も片想いしてるんだから気づいてよ」
「そうやって。ひっかかる女の子が可哀想ですよ」
「だから、なぜそうなる」
この人は鉄壁だと誰かが言った。ああそういえばミクリだった。あの恋愛経験豊富なミクリもリンちゃんを口説いていたが、手玉に取る事は叶わず果ては気持ち悪い人だと言われたと悲しそうに言っていたのが蘇る。あまりしつこいと嫌われるらしく、僕は食い下がるしかなかった。
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