事務所のソファの真ん中で事件資料を読む私の体を隅っこに押しやるなるほどくんは私が端でキュウッとなってるのを見て満足そうに笑うと勢いよくソファに仰向けになった。当たり前のように太ももに頭を乗せているが寝ころんだ衝撃で足は痛かったし、資料はばらけて数枚床に落ちてしまった。

「ちょっとなるほどくん」

「僕昨日頑張ったからからね。ご褒美ご褒美」

 そう言って納まりのいい場所を探して頭を数回持ち上げた。

「頑張ったって……はったりで裁判伸ばしに伸ばしたのなるほどくんでしょ」

「そうしないと有罪になっちゃうところだったんだからしかたないだろ」

「もうー」

 私の不満もなんのそのでなるほどくんは目を閉じて腕を組み寝る体制を作ってしまった。
 確かになるほどくんは弁護士として復活してからあちこち引っ張りだこで結構忙しいみたいだしまあいいか。と、ほんの少しどきどきしていることを悟られないように、気にしてないふりをして再度手元の資料に目を通した。
 恋人ではない。でもただの仕事仲間でもない。この関係の名前は難しいけれど、でも、居心地がいいのは確かだった。

「大変そうなの? 次の裁判」

 見れば床に散らばっていた資料の別ページをいつの間にか持っていた。

「そんな大変ではないかな。心音ちゃんが心細いから隣にいてって言うから私も一緒に立つけど、本当は彼女一人でも大丈夫だと思う」

「りんが甘やかすからみんな我儘になるんだよ」

「そうかなあ」

「そうだよ。現に僕だって、ほら」

 あ、この行為が我儘だってことは認めるんだ。
 思わず笑うと気に入らなかったようでムッとしたなるほどくんが下から手を伸ばして私の頬を摘まんだ。

「ちょっとー痛いんですけどー。はなしてー」

「ふふ。変な顔と変な声」

 摘ままれてこもる声はちゃんと理解してもらえたようで、楽しそうに笑って少し伸ばしてから手を離した。痛いなあ。と、頬を擦って真下のなるほどくんを睨むと想像していた意地悪な顔じゃなくて私は息を飲んだ。
 まるで私のことが愛おしいみたいな。そんな勘違いしてしまいそうな優しい表情をしていた。

「なんて顔、してるの」

「僕どんな顔してる?」

 希望がこもった勘違いを素直には答えることができなくて、ただ見つめあってしまった。しばらく何も言わずにいたなるほどくんだったけど、さっき頬を摘まんだ手がもう一度頬に触れ、また摘ままれると身構えたとき手は後頭部に回り、そのまま力を込められた。

「りんのことが好きで好きでしょうがないって顔してる? 好きすぎてさ、二人でいると嬉しくて顔にやけちゃうんだ。頑張って隠してたけどもう無理みたいだね」

 そのままぱくっと下唇を食むような一瞬のキスをされ、顔が離れたときには顔を赤くしながらもへにゃりと笑った顔がそこにあった。心底嬉しいんだと伝わる表情にこっちまで当てられてしまったようだ。

「りんこそなんて顔してんの」

「どんな、顔?」

「両思いが嬉しくてしょうがないって顔。あとは……もっとしてほしいって顔かな」

 当たってるなんて言ってあげたくなくて、今度は私が体を曲げてさっきよりも長いキスをした。


END


20170220

ALICE+