夜の見回りのときギターの音が聞こえて屋根裏に上がると白いスーツのよく似合う男性が窓辺に片足を乗せて何やらムードのある曲を弾き語っていた。そして最後に「夜はいいなあ。大神ぃ」と浸るように目を瞑った。
 そこでふと気が付く。彼が昔士官学校で共に学んだ同志であると。

「もしかして、加山くん?」

「ん? おおう。大神が随分可愛らしい声になったと思ったらりんじゃないかどうしたこんな所で」

「それは、こっちのセリフなんだけど」

「んん〜夜の街はいいなあ」

「……大神くんならここにはいないよ。今は私が戦闘におけるリーダーなの」

「そうかそうか」

 何が嬉しいのかにこにこ笑いながら加山くんはまたポロンポロンとギターを鳴らしはじめた。

「こっちに来て見てみろりん」

 心地よく寝てしまえそうなBGMをギターで鳴らしながら窓辺に座り外を顎でしゃくった。言われたとおりに近づいて外を見れば星と街の明かりのコントラストが美しかった。
 最近はゆっくりできる余裕がなかったかもしれない。身体的にも時間的にも。
 つい最近リーダーに抜擢され右も左もわからぬまま今でも戸惑ってばかりだ。戦闘における部隊長とは言うが今現在大きな争いが起こっているわけでもない。恐らくここが本格的に戦火に包まれることがあったときは大神くんは戻ってくるだろう。私は大神くんがいない間の予備のようなモノであった。
 それでも私に不満はなかったし、むしろこれを機に自分の力を生かせる地へ行けるかもしれないと前向きに考えていた。
 霊力を安定させるのに長い年月かかったけどやっと使い物になったのだ。不謹慎とはわかっていても自分の力を試したかった。早く霊力を生かせる戦地に赴きたかった。
 そんな気持ちの焦りで完璧にこなそうとしすぎたかもしれない。初めてじっくり見た夜景が目に染みてじんわりぼやけた。

「綺麗だな」

「うん。本当だね」

「りんのことなんだけど」

「えー? 加山くんそんなこと言う人だったっけ?」

 涙が出そうなことや赤くなる顔を誤魔化したくてそう笑って加山くんを見ると彼は少しも笑っていなかった。微かに気まずさを感じて口を閉じた。

「大神が嘆いていたよ。君と顔を合わせることなく完全にすれ違ってしまうことを」

「そうなんだ」

「昔からりんのことでよく言いあってたんだ。今回も抜け駆けするなとは言われたが……かまわないだろう。そばにいないあいつが悪い」

 やっと悪戯な笑みを見せてくれた加山くんだったけど、内容が内容だけにホッとはできなかった。

「りんの特別に、俺ではなれないのか」

 どくどくと心臓から流れる血が体中を叩いた。加山くんはめったに見せない真剣な表情をしている。昔男前だと褒めたことのある表情だ。

『そのかっこいい顔なら加山くんモテるのに、いつも飄々としてるから真剣味がないって思われるんだよ』

『真剣な顔は真剣な時に使うさ。嘘偽りのない心からの声を伝えたいときにな』

 そんな昔の会話が彼の今の表情と重なった。

「嘘偽りのない、心からの声?」

「ああ、そうさ。ずっと君を愛していた。嘘も偽りもない。ぶれたこともない俺の心だ」

「私……リーダーに選ばれたばっかりで自分が強くなることと、この部隊のことで手一杯だから」

「ああ、わかってる。俺は待つ。そういう男なんだ」

 夜景を見て思わず涙が滲むくらい切羽詰まっている私を知っていたんだろう。だから笑顔でそんなことが言えるんだ。

「そんなに甘やかしたら私ダメになるかも」

「ダメになったっていいさ。俺は変わらず好きだ」

 そんな言葉に穏やかな笑みがこぼれた。
 心の余裕ができて加山くんとのことを考えられるときにはもしかしたらもう加山くんの方が気持ちはなくなってしまうかもしれない。それでもほんの少しだけ心の隅に加山くんのことを置くことで今日のことを思い出して乗り切ることができる気がした。

 今だけは何も考えたくなくて加山くんに寄りかかり彼の奏でる心地のいい音を背に、明日の変わらぬ平和を願った。



END



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