【僕のカエルのお姫様】




 もう長く一緒にいるけど毎度毎度恋している。今だって風呂上りの薄着で「太った。ほらこの辺の肉が増えてる」と二の腕を触らせようとする姿に胸がときめいているんだから自分でも重症だと思う。
 彼女は2ヶ月前より3キロ太ったんだと悔しいとも悲しいとも取れる声を出していたけど正直よくわからない。しかし、この前切った髪に気がつかなくて不機嫌にさせてしまった事を思い出して「そうだねえ」なんて気のない返事を返したら彼女は顔に絶望の色を浮かべた。

「やっぱり、わかる?」

「え……いやいや。ほとんどわからないよ」

「うそ、うそ。私の変化に鈍い雑渡さんが気がつくくらいだもの、相当肥えたんだ」

 風呂上りだというのに顔面蒼白で気力をなくしたのかふらふら歩きだしたかと思ったらリビングのソファにすとんと座った。

「大丈夫だよ。全く気にならない」

 ぼうっと一点を見つめる様子に心配になって横にそっと腰掛け声をかけても、俺の言葉はちっとも響いてないみたいでぶつぶつと何かを呟いている。耳を近づけて聞いてみると「雑渡さんが私の作るお菓子ばかり食べたがるからだ」と言っているのがわかって心の中で盛大に焦った。
 このままでは彼女の手作りのおやつが無しになってしまう。会社に持っていって部下に自慢するのが日課なのに。みんなの羨む顔や女子社員の「愛されてますね」という冷やかしが何よりも楽しいのに、それが無くなってしまうのは絶対にいやだ。

「君にこの間髪を切ったことに気がつけなくて怒られたから話し合わせちゃったんだ。ごめんね。太ったのかもしれないけど俺は気にしてないよ」

「そんな慰めいらない」

「慰めじゃないのに。本当だよ。俺は君がどんな姿でも愛するよ」

「……カエルでも?」

 ついこの前見たアニメ映画の設定を口にした彼女に愛しくなって抱きしめて「たとえ一生カエルでもブタでもクモでも俺だけはそばにいる」なんて自分が知ってる変身物の話を思い出しながら言えば俺の言葉に答えるように強い抱擁を返してくれた。

「だからおやつは今まで通り作ってね」

「……回数減らすのは」

「だめ。絶対にだめ」

 俺の返事に目に見えて落ち込んでしまった彼女と名残惜しいが肩を押して距離を取って顔を覗き込む。
 いくら俺がそのままでいいと言ってもやはり気は晴れないようで不安げに眉をハの字に下げている。どんな表情もかわいく見えるのが厄介だ。好きの気持ちが強すぎて彼女に強く言い切れない。

「じゃあ一緒に運動する? ジョギングとか筋トレとか」

「え、でも雑渡さんそういうの面倒くさがるのに」

「手作りのお菓子がなしになるよりはマシかな。さすがに本格的にはできないけど軽くならいいよ。それに2人でなら楽しそうじゃない?」

 俺の提案に驚いたのか一瞬呆けた顔をした彼女だったけど意味をかみしめて理解したとき直視できない眩しい笑顔を見せ大きく頷いた。

「雑渡さんと一緒なら頑張る」

 彼女から飛びついてくれたのを受け止めて洗いたてでシャンプーの香りが強く立つ髪に顔を埋め鼻から大きく息を吸った。どさくさにまぎれて背中の手を動かしてまさぐってみてもやっぱり太ったかどうかはわからなかった。それでも「折角だしおそろいのトレーニングウェア買いましょうよ」なんて可愛いこと言ってくれる彼女に釘はさせなくて、何より“おそろい”に心惹かれて「いいね今度買いに行こうね」と、にやけてしまうのだった。



END




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