焦げたら苦い(良牙)
「苦い」
そう呟いたりんは、失敗して焦げ付いた人参を口に含んだ。
そして、その味に顔を歪め、肩を落とした。
「そんなに気を落とすなよ。苦くても食う」
食べられないわけじゃない。
美味しいとは言えないが、いつもうまい料理を作ってもらっているし、たまの失敗くらいどうってことない。
むしろりんの料理ならまずくても毎日食う。
「美味しいもの食べてもらいたかった」
「いつも美味い」
「でも」
「りんが作ってるんだから俺は平気、だ」
りんの作ったものが食えるだけで俺は嬉しいんだから、悲しそうな顔はしないでほしい。
しかし、何を言ってもりんの笑顔はみれない。
「せっかく一ヶ月ぶりに良牙くんが会いに来てくれたのに、こんなの……。本当はもっと色々考えてたの、でも良牙くん急だったから、慌てちゃって。次はきっと美味しいもの作るから、また必ず会いに来て」
ごめんね。を何度も繰り返しながらりんは焦げた野菜を見てため息を吐いた。
謝るのは俺だ。
きっとりんは俺が帰れると言った日に豪華な食事を用意してくれていたはず。
それなのに俺の方向音痴のせいでいつもその気遣いを無駄にさせてしまう。
そんな俺を怒ることもせず毎回笑顔で迎えてくれて、有り合わせでも美味い飯を作ってくれる。
そんなりんをどうして俺が嫌うことができるのか。
健気なりんをおもいっきり抱きしめたい。
しかし、俺はこんなときにも何も行動できず、ただ、拳を握って耐えるだけだった。
「もう謝らないでくれ。俺は飯を食いに来てるんじゃない。いつも、りんに会いたくて帰ってきてるんだ。俺の方こそ、いつもいつも会いたくてもすぐに会えなかったり、出かけるのも我慢させてたり、俺が怪我するせいで悲しい思いもたくさん、させちゃってて……嫌いに……嫌いに……」
自分の言葉に傷ついていく。
こんなに悪いところばかりの俺を変わらず思っていてくれるわけないと、自信がなくなって、言葉が続かず俯いた。
「良牙くん、心配しないで」
困ったような声にハッとして顔を上げると、りんが眉を下げていた。
慰めさせてしまったことか申し訳なくて、また情けなく俯いた頭にりんの手が触れた。
その温もりに肩がぴくりと跳ねる。
「良牙くんが好き。何があってもこの気持ちは変わらないよ。忘れちゃった? 私から好きになって、やっと付き合ってもらったんだから。だから、お願いだからそんな悲しそうな顔しないで」
そう言うりんの方がよほど悲しそうな顔をしていたというのに。そう口にしてりんを伺い見ると困ったように笑って頭から手がそっとどけられた。
まだ触れていてほしかった。
そんな言えない気持ちをごまかすように焦げた料理を口に含めばやはり苦くて、そっとりんを見るとりんも料理を口にしたのか顔をくしゃっと歪めていた。
そんな顔だって可愛いくてしょうがないと思っているのに欠片も伝えられない自分がもどかしくて、苦しくなった。
りんの言うとおり、本当に焦げると苦い。
身を焦がすほどりんを好きになって、好きで好きでしょうがなくなるほど苦くなっていく。
でも、好きな人からのものなら、どれだけ苦くても痛くても俺は耐えられるし、嬉しいんだと、伝えたい。
りんよりも強く想っているとわかってもらいたかった。
「俺も、好きだから、りんのこと、すごく」
慣れない言葉に息が詰まり、声も驚くほど小さくなってしまった。
ちゃんと伝わったのか不安になってりんを見ると顔を真っ赤に染めて固まっていて、そんなりんを見て俺まで恥ずかしくなって、湯気が出るほど顔が熱くなった。
もじもじとぎこちなく再開した食事も、やっぱり俺には嬉しく思えた。
END
20141211
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