コーヒー二杯の愛(クロコダイル)


夜一人でベッドに寝転び、まどろんでいるとき、人の気配を感じた。
真っ暗な部屋、目を凝らしても何も見えないしドアが開いた音もしていない。
でも確かに部屋の中に自分以外の人間がいる。
ほんの少し感じる恐怖に手が微かに震えた。
さっさと眠ってしまいたい、と、目をきつく閉じたとき、ベッドが何かの重みで軋んだ。

「おい、起きてんだろ」

聞き覚えのある声が響く。
そっと目を開けてみると、目の前にぼんやりと男の顔が映った。

「ひいっ」

「なに怯えてやがる」

暗さに目が慣れてくればその顔も見慣れたものだと気づく。
眉間に深い皺を作った男は、右の手のひらで私の耳を軽く摘んだ。

「クロコダイル…勝手に入らないで」

「俺に随分と生意気な口きくんだなリン」

「…なら、入ってくるのはいいとして、きちんとドアを開けて入ってきて…心臓に悪いから」

「ふん。どう入るかなんて俺の勝手だ」

偉そうに言い放ったクロコダイルはそのまま私を抱え込むようにベッドに横になった。

「ちょっとクロコダイル…まさかここで寝るの?」

「………」

「クロコダイル!」

「うるせえんだよ。黙って寝ろ」

「寝ろって…私のベッドで二人寝るのは狭」

言いかけると、口答えするなとばかりに手で口を塞がれてくぐもった抗議しかできなくなった。
それでも、動いてベッドから出ようとすると諦めたのか呆れたのかわからないような表情をされる。

「俺が自分でここに来たんだ。お前は黙って俺に抱かれて寝ろ」

「………クロコダイル、もしかして眠れないの?」

私のそんな疑問は晴れる事無く、今度こそ閉じ込めるように強く抱き締められて、くしゃくしゃになってしまったであろう髪の毛を撫で付けられた。
随分と珍しいクロコダイルの様子に思わず顔が綻んで、気が付けばクロコダイルに縋りつくように眠ってしまっていた。

朝起きると昨晩のことなんて、まるで覚えていないみたいに優雅にコーヒーを飲んでいるクロコダイルが少し寂しかったけど、テーブルの上にもう一杯のコーヒーが用意されていたのを見ると、やっぱり昨夜の珍しいクロコダイルがまだ微かに残っているような気がした。




END

20101027

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