髭の人(ミホーク)



最近髭の男が私の部屋に入り浸ってる。

自宅の一階を武器屋として使っているその武器屋の方によく来てた人だったのだけど、ある日気が付いたら私の部屋のソファに座っていた。
兄が武器の収集家で、そっち系のコネクションがあった。
私はあまり武器に興味はないけど、定期的に兄から送られてくる武器と、扱い方と価格設定の通りに私が販売しているだけ。
そんな私にこの男は使い道もわからないような大きい刀や、変な形の剣などの入手経路や、手入れの仕方、メリットやデメリットなどをしつこいくらいに聞いてきた。
知り合った頃は知ってる事だけ述べて、わからないことはわからないと言っていたけど、この髭男が「それで客商売がなりたつと思っているのか、客に聞かれたことくらい調べぬか」と言いはなったため、仕方なく兄に連絡を取って髭男のために興味の無い武器を詳しく調べるのだった。

「髭男ではない。ミホークだ」

この髭男があの鷹の目だと知ったのは、この男が私のプライベートルームで寛ぐようになってから一ヶ月くらいが過ぎたころだった。
私は、自分のお店の武器と同じくらいこの男に興味が無かった。
最初こそ警戒はしていたけど、武器に関しての情報かコーヒーかご飯を要求してくるだけで後は空気のように静かで穏やかな男だったから別にいいかと、そのままにしていた。
そしていつの間にか長いことここにいる気がする。

「ミホーク今日は帰らないの?」

「今日は疲れた」

この男は昨日もここに泊まって、開店すると一緒に店に出て、そのせいでお客が逃げちゃって………。
店に出ると言っても刀の前で座ってるだけだったし、何が疲れたんだか。
ミホークはあたかも自分が働き回ったかのようにソファに体を沈め肩を叩いて首を回した。

「なに疲れ?」

「リンのおもり疲れだ」

「私の? 私がミホークをおもりしてるの間違いじゃない?」

「いいから、肩を揉め」

「きい!」

早くしろと、指で私を呼びつけるミホークに腹が立つ、けど、年寄りを労わってあげる事にしよう。

「お客さん、随分凝ってますねー。無理されてるんじゃないですか?」

「うむ、そうだな。ある女を面倒見ているんだが、これがまた厄介な女でな」

「へえ。大変ですね。でも、お客さんもういい年なんですから、あまり無茶してはいけませんよ」

珍しく悪ふざけに乗ってくれたと思ったら、厄介扱いされてしまった。
悔しいから私も年寄り扱いして笑ってあげたらむすりとした空気を感じ取った。
あら、拗ねたりもするんだ。

「いい年は余計だ」

「気にしてるの? 大丈夫、ミホークは渋くて素敵なおじさまだよ」

「おじさま………嬉しくないな」

「そう? 褒めてるのに」

笑いながら肩を押す力を強めると、身を捩って逃げられた。
しかたなくミホークから手を離すと、いつも通りの無表情が私を見上げた。

「褒めるより別の言葉が欲しいものだな」

「別の言葉って?」

「リン、お前は厄介な女だ」

バカにしたのか、呆れたのか、そんな言い方に今度は私がむすりと口を尖らせていた。

「厄介だと思うなら」

「こんなに気にしてやっているというのに、気が付かない。本来の予定ではとっくにこの街を出ていたはずだったのだが………心配で、こんな所に捨て置くなんてできんな」

「捨て…それ、私のこと?」

「………」

「ねえ、それって私の事が好きってこと? 欲しい言葉って、私に好きって言ってほしいってこと?」

「お前は本当に繊細さの欠片もなくズケズケと物を言う女だな」

それだけ言って、腕を組んだミホークは俯くように眠ってしまった。
寝たふりなのはあきらかなのに、そのあとはいくら呼んでも引っ張っても突付いても叩いても強情なこの男は、口も目も開かなかった。
しょうがなくミホークに薄い毛布をぶつけるようにかけてあげて、私もいつも通りの眠りについた。



「やっと起きたか」

「………ミホーク、おはよう」

「ああ」

朝目覚めるとベッド横の椅子に腕を組んで座っているミホークがいた。
起きたばかりの冴えない頭にも何故私の部屋にいるのかという考えはよぎったけど、それを口にする力が出なかった。

「リン、お前は俺をどう思ってる」

「私…寝起きなんだけど」

「知ってる。俺をどう思っているんだ」

そういう質問はせめて、顔を洗ってからとかにして欲しい。
ゆっくりとベッドに座って、ミホークの事を考えてみた。
勝手に部屋に上がってきたりはするけど、頼めば家事などもしてくれるし、人から恐れられてるけど強い証拠だし、年は離れてるけど、大人の魅力を感じるし。
なにより、一緒に過ごすのが普通になってて、いなくなるなんて考えもしなかった。

「どこか行っちゃったら、寂しい」

「そうか」

「なんだかんだ長く一緒にいたし、ずっと一緒に居るような気でいたな」

「そうだな」

私の言葉にたいした反応もしないミホークは、微かに首を縦に動かしてる。
最初も今もよくわからないミホークだけど、確かに出会った頃とは違う感情が芽生えてると思う。

「ミホークのこと好きなのかもしれないな」

思わず呟くみたいに口から出たその一言にミホークが一瞬動きを止め、目を開いた。

「本当か」

「んん。多分、そうなのかも」

「かもだの多分だのと曖昧だな。はっきりしろリン」

怒るように目を鋭くしたミホークだけど、その内心は慌しいようで、足を落ち着きなくかたかたと揺らしていた。
そんな見たことの無いミホークの姿に笑いが漏れる。

「リン」

「わかってるよミホーク。私、いつのまにか離れたくないって思うくらいくらいミホークのこと好きになってたみたい」

「うむ」

「ミホーク、一緒にいてね」

「………ああ、もちろんだ」



END

20111118

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