ないいたみ(カクタスガンマン)
私は粘土でできている。
ネコゾンビは私を「痛みを隠して、表情を作る。哀れで可哀想な女だにゃ」と言う。
ネコゾンビは「ここの住人は元の世界の生き方を表しているにゃ」とも言った。
私は粘土でできていて、怒る気持ちがあっても笑う顔をつくることができる。
滅多にないけど腕がちぎれたって痛くない。
ネコの言う元の世界がなにか私にはよくわからないけど、私は自分が可哀想だとは思わなかったし、この体も嫌いじゃない。
確かに、ちょっと前は粘土ではなかったような気もするけど、それもあまり覚えていない。
でも、自分を形成する中身が変わっていないことはわかる。
粘土だろうが、そうじゃなかろうが、私の性格は変わっていないなら、キャサリンに採血されても痛くない粘土の方がよっぽどいいと思っている。
「セニョリータ、どこに行っていたんだ! 心配したんだぞ」
私が降りようとした階段を駆け上がってきたカクタスガンマンは随分私を捜してくれたみたいで、上がった息を整える前に私を抱き寄せた。
体のあちこちにカクタスガンマンのトゲがスッと刺さる。
私が粘土になってからカクタスガンマンは私に触れてくれるようになった。
前は触れれば怪我をしてしまうからと、向こうからスキンシップなんて全然なくて、私から触れて怪我をしてもカクタスガンマンが悲しそうな顔をするから私も触れることができなかった。
今でも小さく穴のあいた手や体を見て申し訳なさそうにはするけど、それでも触れ合えることが私たちには喜びだった。
「何を心配するの。怪我もしないのに」
「怪我だけを心配してるわけじゃないのさ。セニョリータはいい女だからどこで何があるかわからないだろう」
「ここで私と誰かがどうにかなると思う? 私をいい女だなんて言うのはカクタスガンマンくらいだよ」
「いいや。リンはいい女だ」
腕の力がこもって更にトゲが深く刺さる。
トゲの痛みはないのに締め付けられる苦しさを感じるのは私自身不思議だと思う。
身を捩って微かに苦しいことを伝えると、カクタスガンマンは慌てて体を離した。
「すまない……また、穴だらけにしてしまったな」
「別に平気だよ。痛くないし、すぐ直るから」
ほら。と、少し体に力を入れたらトゲの痕はすぐに消えた。
それを見て、カクタスガンマンはほっとしたように息を吐き、その後少し悲しそうに笑った。
「セニョリータが、無理をしているんじゃないかと、常に思っているんだ」
「無理って?」
「体に痛みはないと言うが心は違うだろう。心の痛みまで感じないふりをして笑顔を作って、我慢して、いつか我慢できなくなったときに、リンはいなくなってしまうんじゃないかと、最近はそんなことばかり考えて、リンが側にいないと不安で仕方ない」
「私にはここ以外に行く場所なんかないから」
「リン、俺といて辛くはないか」
そっと掬い取られた手にはまたトゲが刺さって穴が空いたけど、私はそのトゲの刺さる感覚がとても心地よかった。
ジェームズのイタズラを勘違いされ、シェフに切りつけられたときは、痛みはないけど嫌な感覚がずっと残っていた。
そのとき私は、痛みは感じないけど嫌悪は感じると気がついた。
そしてもうひとつ。
「私ね。カクタスガンマンとくっついていたいからこの体になったんだと思う。ずっと抱きしめてほしいって思ってたから、今の私は幸せだよ」
私から、カクタスガンマンに抱きついてトゲの刺さる感触を堪能した。
「俺から離れないでくれよセニョリータ」
「私の居場所はカクタスガンマンの隣しかないよ」
そっと髪を撫でられ、気持ちよさに目を閉じてしばらくそのまま抱き合っていた。
END
20140510
ALICE+