学校帰りに(琉夏)


「あ」

帰りに頼まれていた買い物をするつもりだったことを思い出して思わず漏れた声に少し前を歩いていた桜井琉夏くんが振り返った。
とは言っても私達は一緒に帰ってるわけじゃなくて、ついさっき琉夏くんに追い抜かれてたまたま出来た距離だった。
だから、自分の独り言に反応させてしまったのが申し訳なくて苦笑いしていると、琉夏くんは私の方に足を戻しながら「どうしたの」と聞いた。

「あ…と。忘れ物」

「忘れ物? 何忘れたの」

「買い物頼まれてて」

「なんだ、それなら俺も買い物したかったからちょうどいいね。行こうりんちゃん」

また私の横を通り過ぎた琉夏くんだけど、今度は私を振り返って、早く。と急かす。
慌てて琉夏くんの隣に並ぶと人のいい笑顔を向けられた。
そういえば、私の名前知ってたんだ。

「りんちゃん何買うの?」

「夜ご飯に必要なものだから…琉夏くん付き合ってくれなくても大丈夫だよ?」

「俺も買い物あるって言ったでしょ?」

「でも、真っ直ぐ帰ろうとしてたってことは今日行くつもりなかったんじゃ」

「いいの、俺が行くって言ってるんだから。せっかくりんちゃんと一緒に帰ってる気分味わってたのに居なくなっちゃつまらないし」

「…ん?」

琉夏くんの言い方が少し引っかかって疑問をぶつけると、琉夏くんは私の真似をして首を傾げて誤魔化した。

「琉夏くん今一緒に帰ってる気分って言った」

「うん、言った」

「そんなに女の子と一緒に帰りたかったの?」

「いいや、違うよ」

「………私と、帰りたかったとか」

様子を窺うように琉夏くんを見ると、琉夏くんは相変わらずにこにこしてるだけで何も言わない。
途端に自分の自惚れた発言が恥ずかしくなった。

「い、今の忘れて」

「あっ恥ずかしがってるりんちゃん可愛い」

「そんなの見なくていい」

「勝手にエアラブラブ下校楽しんでたって言ったら、俺のこと嫌いになる?」

「エアラブラブ…?」

「うん、他にもりんちゃんとエアデートいっぱいした」

「エア、デート…」

「今日だって少し後ろを歩くりんちゃんが俺について来てくれてるみたいでいい気分だったんだ」

よくわからない琉夏くんの行動と言葉に何も言えないでいると、今度は琉夏くんが私の顔を覗き込んだ。

「やっぱり引いた?」

「引きはしないけど…なんでそんな」

「ほら、俺ってりんちゃんのこと好きじゃん? だからせめて気分だけで」

「ちょっちょっと待って! 今自然すぎて普通に頷いちゃったけど、私の事好きって!?」

「うん、好きだよ。りんちゃんのこと好き」

琉夏くんは好きだと数回繰り返したあと私の手を握った。
うろたえる私を見て琉夏くんは面白そうに声を出して笑うと、絡めるように手を握りなおした。

「る、琉夏くん」

「りんちゃん好きだよ」

「もう言わなくていいから」

「りんちゃんは?」

「わ、私………」

嫌いかと聞かれれば嫌いじゃないと言えるけど、琉夏くんの好きに答えられる好きを、私は持ってない。
そんな考えが顔に出ていたのか、琉夏くんは少し寂しそうに笑うと、私の頭を数回撫でた。

「あは。ごめんずるかったね。でも、俺は好き。これから誘ったら一緒に帰ってくれる?」

「…うん」

「デートもしてくれる?」

「…うん」

「りんって呼んでいい?」

「うん」

「俺のこと好き?」

「………」

「アハハッ。俺はりんのこと好き」

それから数回のデートで私の気持ちはゆっくりと変わっていることに気づいた。





END

20100730

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