カップケーキの行く末(流川)
ホームルームも終わり生徒がざわざわと教室から出て行く。
下駄箱の混雑を避けるためにゆっくりと帰り支度していると、ふと影が降りた。
ゆっくり影を作った原因を見あげると、そこにはクラスメイトで特別に仲がいいわけでは無い、流川くんが立っていた。
「流川くんどうしたの?」
鞄に物を詰める手を止めずに聞くと、流川くんは何も言わずに手を差し出した。
何もわからず、上に向けられた手のひらに、そっと右手を重ねてみる。
すると今度は反対の手が差し出されたので、左の手を乗せた。
そのままの状態で流川くんを見ると、流川くんは私の手を捨てるように投げたあと「犬か、どあほう」と呟いた。
「ちょっと、なにか言ってくれなくちゃわからないよ」
「腹減った。それ、よこせ」
指差されたのは今まさに鞄に詰めたばかりの、調理実習で作ったカップケーキが二つ入った紙袋だった。
しょうがなくもう一度鞄から出してみる。
「これ? ケーキだから甘いよ?」
「いい」
「提出用じゃないからトッピングも綺麗じゃないし、チョコとか塗りたくってるし」
「いい」
いい。しか言わない流川くんだけど、ふざけて全部のトッピング乗せたりしたからできれば差し上げたく無い。
「他の子に貰ったら? 言えばくれると思うよ」
「それが食いたい」
「なんでこれなの、他のだってきっと一緒だよ?」
「高松のやつがいい」
どれだけ言っても引きそうに無い流川くんに負けて、しぶしぶと紙袋を差し出すと、意外にも流川くんは受け取った後、微かに嬉しそうに笑ってくれた。
「本当に綺麗じゃないし、もしかしたら美味しくないかもしれないからね」
強く念を押すと、流川くんは2回ほど頷いた。
そのまま無言で去って行く流川くんの背中に「じゃあね」と声をかけると、背を向けたままカップケーキの入った紙袋を掲げた。
よくかわらないけど、きっと甘いものが好きなんだろうな。と、思うことにして、私は帰り支度を再開した。
一方体育館では。
流川が着替えてる間に、桜木、宮城、三井の三人が紙袋に集まっていた。
「ぬぅ…なんだこれは、甘い匂いがするが」
「流川がもってきたんだろ? 差し入れとかじゃねぇか」
桜木の声に宮城も不思議そうに紙袋を見ながら答える。
「くっキツネのくせに生意気な」
「あいつがこういうの受け取るの珍しいよな」
桜木と宮城の話を黙って聞いていた三井が意地の悪い顔で一言。
「空けちゃえ」
その一言に遠慮なく袋を開けたのは桜木で、中から出てきたカップケーキを見て三人は「おー」と、歓声を上げた。
そして、三井がにやりと笑いまた一言。
「食っちゃえ」
その言葉に三井と同じ笑いを浮かべた二人は一瞬でケーキを食べてしまった。
「ん! 美味いぞ!」
「あーお前ら俺にも一口くらいよこせよ!」
「もう食っちゃいましたー」
「……俺の、ケーキを」
騒ぐ三人の後ろにいつのまにか流川はいた。
いつもと様子の違う流川に微かに怯える三人。
「る、流川……三井先輩が食えって言ったんだ」
「なっ宮城も躊躇しないで食っただろ! だいたい桜木が最初に」
「ぬあー!? ミッチーきたねぇ!」
「俺の、ケーキを……よくも……許さん!」
「やばい! 流川がキレたー!」
その日の部活は、流川の大暴走を止めるので終わってしまったのだった。
「と、言うわけだから高松、ケーキ作れ」
「どういうわけかわからないから!」
END
20110912
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