夏から冬の変化(クザン)
この夏リンちゃんがやけに懐いてきた。
口を開けば大将大将。暇があれば後ろを着いて回って、最初はまるでカルガモの親子だなって思ってたけど、あの俺の名前を呼ぶ笑顔がたまらなく可愛い。
リンちゃんの自分を慕ってくれる気持ちがびしびし伝わってくるし、俺もリンちゃんが好きだったから、面倒そうに接しながらも内心すごく嬉しかった。
自転車の後ろに乗せて色々と遊びに行ったりと、この夏だけで二人の距離はかなり近づいたと
…思ってたのに。
「リンちゃん?」
「なんですか?」
「どうしちゃったの急に」
「…え? 何がですか?」
秋も中ごろに突入し、もう冬まであと少しだななんて思った頃リンちゃんが全然前みたいにくっついて来てくれなくなったことに気づいた。
休憩室のソファで雑誌を読んでいるリンちゃんの後ろに立って顔を覗き込んだ。
「だってほら、あんなにリンちゃん…ねえ?」
「あんなに?」
「あんなにいつも俺の後ろに付いてきたのに、あっ自転車でどこか行く?」
「え…こんな寒いのに外になんて行きたくないです」
「…じゃあ、一緒に昼寝でもしようか」
顔だけを後ろに向けて俺を見上げるリンちゃんの頭を優しく撫でると、リンちゃんはくすぐったそうに笑った。
「クザン大将」
「ん〜リンちゃん、じゃあおいで、仮眠室のベッドで寝よう」
可愛いなあ、抱き締めたいなあ。
なんて思いながら撫で回してるとリンちゃんの手がやんわりと俺の手をどかした。
「クザン大将は冷たいから一緒には寝ません」
「…冷たいって、でも前はよく一緒に昼寝したよ?」
「前は夏だったから、今はもう寒いですもん」
リンちゃんの信じられない言葉に驚きが隠せない。
前は夏だったからって、この子ってばそう言った?
「なっ…リンちゃん! あんなに懐いてたのは夏だったからで、寒くなったら俺は用無しだって言うの!?」
「ちょっ…クザンたいしょ、耳元で、声でか」
「ひどいじゃない、いい年した男の心を弄んでおいて!」
「も、弄ぶ!? その表現は人聞き悪いですよ!」
「だって、リンちゃんはてっきり俺を好きでいてくれてると思ってたのに!」
ソファに膝で立ったリンちゃんと、背もたれを挟んで向かい合った。
膝立ちのリンちゃんと背もたれに腕を付く俺の顔の近さがすごく新鮮に感じる。
「好きって、そりゃ…好きですけど」
「じゃあ、おじさんをその気にさせたんだから責任とってちょうだい」
「責任…!? 責任ってなんですか」
「責任取って俺と付き合って」
「付き合うって、私と大将がですか? そんなの考えられないですよ」
心底驚いた顔のリンちゃんを両脇から持ち上げてソファの背もたれに座らせると、リンちゃんはバランスを取るために両腕で俺の肩に手を乗せた。
「考えられないってなにさ、傷つくなあ。ほら、今の俺たちは恋人同士みたいじゃない?」
「そう、ですかねえ」
「どっからどう見てもお似合いのカップルだよ。ね? 付き合ってくれるよね」
「………大将は私の事好きなんですか? 誰でもいいなら」
「ああもう、リンちゃんったら…。俺はねえ、好きでもない女の子と遊ばないよ」
その瞬間、リンちゃんが顔をくしゃっと顰めた。
「嘘じゃないですか。大将が女の子ナンパして遊びに行ってるの見たことありますもん」
「うっ…でも、流石に一緒のベッドで昼寝したりはしない」
疑わしげに細められる目に居心地が悪くなってくる。
こんなに信じてもらえないなんて。
「リンちゃんの疑いの眼差しが痛いよ」
「日頃の行いです」
ふい、と、顔を背けたリンちゃんに苦笑いして頭を掻いていると、そっと様子を伺うように見上げてきた。
「本当に私のこと好きなんですか?」
拗ねて、疑うそんな声と目には微かな不安も読み取れた。
それがなんとも言えずに可愛くて、緩む口元もそのままにして、俺はリンちゃんをソファの背もたれから落ちないように抱きしめた。
「好き。また前みたいに俺に懐いてくれる?」
「…冬はしっかり暖めてくれるなら」
「そんなのお安い御用」
リンちゃんの、服を掴むように背中に回された腕の感覚に、まるで少年の頃のようにどきどきしてしまった。
END
20111205
ALICE+