青少年センチメンタル
きっと彼は、私のことを子供だと思っている。
実際そうなのだから当たり前だろうと言われてしまうかもしれないが、これが私の最大にして最悪の悩みなのである。十九歳といえばもちろんまだ未成年であるが、十八歳を超えているせいか子供と言い切ってしまうのも不適切なように感じる。
私よりもずっと度胸がなくて、頭が悪くて、麻雀が弱い大人などいくらでもいるのに、何故年齢だけで子供扱いされなければならないのか。
「名前ちゃんはいつもそのことばっかりだね」
東空紅のソファで隣に座った裕太はそう言って笑った。そうだ、こいつなんか大人なのに定職につかず女の子の家に居候して暮らしているらしい。私はまだ大学生だが、麻雀で勝ったお金とバイト代で一人暮らしをしている。偉いだろう。本当に子供ならこんなことはできまい。
「じゃあ私のどんなところが子供だって言うのよ。どこも子供っぽくなんかないでしょ?」
裕太は目線だけを上に向け、うーん、と考えるように唸った。
「強いて言うなら、
余裕、とか?」
余裕。余裕か。私は滅多に焦ったりなんかしないと思うけれど。例えば、東風戦の第三局で対面に逆転され、オーラスで巻き返そうと思った矢先にその対面がリーチをかましてきた時があるとしよう。そんな時ですら私は焦らない。振り込まずに聴牌へ持っていき、そのままアガることなど私にとっては簡単すぎるほどだ。
「余裕って言われてもねえ。私が焦ったりすることなんてあるかしら」
「子供扱いされることに焦ってるだろ?」
裕太はアイスティーにシロップを注いでかき混ぜた。
あの人や裕太が子供扱いしてくるから文句を言っているだけで、別に私自身が大人っぽいか子供っぽいかを気にしている訳では無い。
「みんなが子供扱いしてくるからよ!誰もからかってこないなら私だって気にしないわ!」
「そう、そうやってすぐムキになるところが子供っぽくて可愛いんだよ」
また始まった。子供っぽくてかわいい?そんなこと言われても何も嬉しくない。体が熱くなるのと同時にどんどん言葉を口から吐き捨てるペースが速くなっていく。
「いい加減にして!わ、私だって、私だって大人っぽくなろうといろいろ頑張ってるのに……!」
感情の制御が上手くできなくなる。怒っているのか悔しいのか悲しいのかもうよく分からない。
自分を落ち着かせようと深呼吸して俯いた私に裕太は手を伸ばした。慌てて顔を上げると、彼の華奢な右手が私の髪をふわりと摘んで耳にかけた。
「別に、無理して大人っぽくならなくてもいいと思うけどなあ」
「嫌よ、舐められたくないの」
どんなに怒っても、いつもこうやって軽くかわされてしまうのだ。そうか。これが大人の余裕なのか。
「無理することないよ。そのままが可愛いんだから」
「……ほんと女たらしね。さいてー」
「あはは、よく言われる」
なんだか恥ずかしくなって私はそっぽを向いた。照れ隠しだと思われてしまうだろうか。この男の笑顔が、声が、その余裕が、どうも私を蝕んでしまっているみたいだ。
若いサラリーマン二人が店内に入ってきた。あそこに入れてもらおうか。まだ大人になりきれない子供でも、麻雀に勝てるってことを証明しに行こう。
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