歩くアダルティ
「サーヴァント、ランサー。真名、カルナ。宜しく頼む。」
虹色に目映い光の中から召還されたのは、マハーバーラタにて名高い英雄の一人、その人であった。腰抜かすかと思った。
「どうした、マスター。」
「え?あ、いや、ごめん。あの、寒くない?」
どうしよう。早くもマスターと呼ばれた事に戸惑いが隠せない。あと正直衣装が気になる。すごく気になる。寒そうとかそういうレベルではない。どこぞの槍兵よりピチピチではないか。
「いや、大丈夫だ。そもそもオレたちサーヴァントは暑さ寒さにさほど影響はされない。」
「そ、そうですよね……」
分かりきっていた答えだが、どうしても目のやり所に困る。俯けば股間が視界に入るしこれでもかってくらい金の鎧が主張してるしタイツの上からパンツみたいに見えるし、顔を上げてても胸元ガバッと開いてるみたいで肌の露出が……ダメダメダメ!乙女の思考に悪いっ!
「マスター?」
「あっ、ご、ごめん。早速だけどカルデアについてとか説明するから来てくれる?」
「ああ、承知した。」
そして何故マイルームに来ちゃったしー!ベッドに並んで座るなんて!くっ、向き合っては喋れないわ!見てるこっちが恥ずかしいわ!
こほん、とわざとらしく咳払いして気を取り直す。とりあえずちゃちゃっと軽く説明して部屋に案内しちゃおう。
「えと、なんとなく聖杯から知識来てると思うけどどこまで知ってるものなのかな?」
「ふむ。そうだな……お前が人類最後のマスターだという事は知っている。」
「あ、はい。すいません。」
「何故謝る。」
曖昧な質問は曖昧な答え、そして曖昧な会話にしかならないという事が発覚した。初っぱなからそこを突かれ、咄嗟に謝ってしまった。こんなマスターが人類最後でほんと申し訳ない。
「えと、まあ、それで、人理を守るべく特異点の修復とかを主にやってるんだよね。今までの聖杯戦争とは違ってここに居るサーヴァントはみんな仲間だから、最初は慣れないかもしれないけど……」
「ああ、ちゃんと打ち解けるよう努力しよう。」
少しずつなんとか話題を繋いで話していけば、どうやら彼は見た目に反して素直な性格のようだ。質問には答えるし、話の合間に相槌も打つ。質問は無いか聞くと「特に問題は無い」としか返してくれないのがちょっと寂しいが、上手く付き合えそうな気がして安堵した。
目付き悪いからほんと最初はどうしようかと。なのに挨拶が真名だし緊張しまくりで肩凝ってきたよね。
「と、まあこんなものかな。また分からない事があったらなんでも聞いて!答えられるものは答えるし。」
「そうか。では……聞くべきではないのかもしれないが、気になった事が一つ。」
「ん?なに?」
「お前は……怖くは無いのか?」
意外な質問だった。人類最後のマスター。それは人類最後の砦であり、僅かな生き残りに過ぎない。そこに掛かる重しを、彼は問いているのだということはすぐに分かった。そして真っ直ぐな彼だからこそ、そう聞いたのだろう。
頭の中ではわかっているが、心は悲鳴を上げた。怖いと、感じた。彼が。いや、彼に、誰かに、本心を知られる事が。弱音を吐き出して子供のように泣きじゃくりたい、逃げ出したいと思っている自分が有ることに。気付いていながら見ないフリをして誤魔化していた事に。
「すまない、どうやらオレは誤解させてしまったようだな。」
「い、いえ、あの、私……」
「その、上手くは言えないのだが、オレはお前のサーヴァントだ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、不安だと言うなら支えになりたいと思うし、なるべきだと思っている。」
戦うだけがサーヴァントの役割ではない。力だけで、マスターを全てから守れる訳ではない。だからこそ、あらゆる面から頼って欲しいし、力になりたいと、彼は言うのだ。
「カルナさん……」
「どうやらオレは一言少ないらしい。上手く伝わっているだろうか……」
「う、うん。ありがと。」
「ああ。」
言葉の在り方に気を使う彼に、意外な一面を見た気がした。
*
「わぁあああっ!」
翌日、マイルームを出ようとしたら目の前に何かがあった。いや、もう完全にカルナさんそのものなんだけど。
「大丈夫か、マスター。驚かせるつもりは無かったのだが……」
「びっくりしたぁ。」
まさかマイルーム前に待機しているとは。いつの間に部屋に居る面子も驚きだが、これもまた斬新すぎて驚きだ。心臓に悪いぞ。
「あ、何か用だった?」
「いや、そうではないが。」
では何故マイルーム前で待機していたのだろう。普段は常識範囲では思うように過ごして良いと伝えたはずだ。戦闘はシュミレーターを使う事、それも伝えたはずだ。
「とりあえず私はドクターの所に行くから。」
「ああ。」
うーん、なんだ。部屋にでも居てくれと伝えようと思ったが、どうやら彼は着いてくるつもりらしい。しかも、かなりぴったりと。近い。かなり近いぞ。
(あったかい……)
もはやほぼ接触していると言ってもいい背中があったかい。振り向くな。感じるな私。ちょっと止まると後頭部が彼の胸元の石に当たって痛いのだが、それを伝えるため振り向く勇気は今はない。彼の露出の高さを思い出してしまったから。この距離が変に緊張する。
「じゃあ、今日は種火集めと……」
なんとかドクターとブリーフィングを終えたが、それでも尚彼はぴったりとした距離で着いてきている。あったかいけど。あったかいけど!
「あ、あの、カルナさん……?」
「なんだ?」
「その、ですね。距離……近くありません?」
「距離、か?」
意を決して伝えてみる。正直振り向くほど背後に余裕はなく、首だけを後ろに向けた感じになってしまった。ほんとに近かったんだな。
かくいう彼は、きょとんとした表情でこちらを見下ろしている。可愛いけどそうじゃなくて!
「あの、肘ぶつかりそうだしもう少し距離置きませんか?」
一歩私が離れ、隙間についてジェスチャーしてみる。せめてこう、ぶつからない程度の距離は欲しい。ほんと気を使うから。ぶつからないようにするのかなり気を使うから。分かって!
「オレは別に構わないが……お前の一撃など大したダメージにはなるまい。」
違う!そうじゃない!
「いや、あの、そこまで勢い良く振り向くとかそういう事は少ないとは思うけど……なんていうか……ちょっと気を使う、かなぁって。ぶつからないようにするのが……その……」
ああ、言ってしまった。彼は大英雄なのだ。私みたいな一般人が気を使うなど当たり前なのに。何を言ってるんだか。
「む……それは考慮が浅かったようだ。すまない。」
「い、いえいえ!あったかくはありましたけど!」
怒られなかった事に安堵しつつ、改めて移動を開始する。つもりであったが、急に腕を引かれ結局彼の胸にダイブしてしまう。
「わっ!カ、カルナさん!?」
「オレはここに居る。お前は一人ではない。安心してくれて良い。」
「へ?」
どうやら、彼は私が不安がっていると思っているようだ。確かに不安はいっぱいあるが、だからといってそこまで殻を背負ってるつもりもない。ただ、彼のそんな優しさがじんわりと身に染みたのも事実で。
「へへ、ありがとう。」
「ああ。」
ぽんぽんと撫でられるのが心地好い。支えられた背中に、酷く安堵する。頼っても良いのだと。甘えても良いのだと。それを受け入れてくれる相手が居るのだと。そう分かっただけでも十分幸せに思えた。
しかし、彼を見上げるには私の身長だとまず胸元の露出が視界に入るのだ。それたけはなんとかして慣れなくては。客観的に見て彼、歩くアダルティだと思うの。