卑怯な答え
ちょっぴり我が儘で、天真爛漫。誰もが目を放せなくなる魅力的な笑顔と、誰もが放っておけなくなる真っ直ぐさ。
マリー・アントワネット。
彼の、初恋の人。
「確かに僕はマリーの事が好きだ。だからといって、それとこれとは違うんじゃないかい?」
「う、わ!アマデウスさん!」
背後から急に掛けられた声にびっくりしたと返せば、彼は悪戯が成功した少年のようににっこりと笑って見せた。
今は会いたくない、そう思って人の寄り付かぬこの部屋の奥で身を潜めていたというのに。何故バレたのか。
「何故僕がここにいるかって?そりゃあ、慌てて走り去って行く君の姿が見えたからね。気にもなるさ。」
そこまで言って、「いや、そうじゃないな」と彼は呟くように続けた。
「君が何処へ行こうとするか、何処で何をするか、僕には分かる。前にも言っただろう?僕は君を見ているからね。」
「そ、れは……」
「もちろん、君がそれだけ分かりやすいというのも事実だ。それは誇れる事だよ。」
「全然褒められてる気がしないんですけど……」
事実褒めてはないのだろう。その言葉に対して、彼はにっこりと笑顔を浮かべるだけだ。
「僕は君の事が好きだと言ったろう?何も問題無いじゃないか。」
「それをストレートに言いますか。」
「だって事実だからね。確かにマリーの事も好きだ。それは僕自身にとってそれがかけがえのない一つの事柄だから、という事でもある。それと同時に、今の僕にはマスターという君が居て、僕はその主従に近い立場をぶち壊してまで君を手に入れた。」
「ちょ、ちょちょちょちょっと!突然何を……」
主従関係をぶち壊し、というのは実際その通りなのだから恥ずかしい。何故付き合う過程で初夜を迎えねばならなかったのかあああ私は何を言っているんだ!!
赤面しテンパる私に、アマデウスは尚も楽しげに笑顔を浮かべている。まるで一喜一憂する姿が愛しいもののように。
「今更恥ずかしがる必要も無いだろう。誰かに言って聞かせるわけでもないんだから。」
「言って……!?ま、まさか誰かに言ってないよね!?」
「言うわけないだろう。君のあんな姿こんな姿、知るのは僕だけで十分だ。」
なんだこのやり取りは!恥ずかしくてほんと顔から火が出そうだ。
「始めに約束しただろう?僕は君の人生を飾る事は約束すると。」
「え、うん。」
急に聞こえた真面目な声に、慌てて顔を上げる。先ほどとは違い至極真っ直ぐな瞳に、私が映っている。
「それは嘘偽りない僕の本心だ。一目惚れ、というやつだね。軽くて君にはあまり使いたくはないけれど。」
君の悲しみは僕が喜劇に、君の喜びは僕が旋律に。そして願わくば――
「願わくば、君の幸せは僕が奏でたい。」
「ア、マデウス……」
「おっと。いい加減敬称は無くしたまえ。君と僕の仲じゃないか。」
「ん。」
やはり、私は彼が好きなのだ。その笑顔一つで、胸がときめいてしまうのだから。