糖衣の下のメチャクチャ
深夜、静まり返ったマンションの廊下に細いヒールの音が反響する。機材トラブルにより青年誌のスチール撮影が大分押してしまい、スタジオを出た頃には既に日付が変わっていた。待機していた万理さんも疲れた様子で苦笑しておりお互いに溜め息をついたぐらいだ
シャワーは明日にしてとにかく今は寝よう。メイク落としのシートまだ残ってたっけ
そんな事を考えながら鍵を出そうとバックの中を探っているとドアの向こう側から足音が聞こえてくる
「…まさか、空き巣!?」
「やっと帰って来た。遅せぇよみゆちゃん」
無人の筈の家のドアが開き、その声の主は最近交際を始めた年下の彼氏だった
後ろ手に鍵を閉めて小さく息をつく。この前渡した合鍵をさっそく使ってるなんて思わなかったな。これが壮五くんに知れたら「女性の家に連絡もしないで上がり込むなんて」とお説教が始まりそう
「おかえり。みゆちゃん帰ってくんの待ってた」
「ただいま。撮影が押しちゃってもうくたくただよ〜」
「ん」
両手を広げて立っている環を拒む理由もなく、その胸に寄り掛かる。ハグでストレスが癒せる話は本当みたい。あんなに疲れてたのに今は環の温もりと匂いでいっぱいだ。今日一日頑張って良かった
「でもよく私が帰って来たって分かったね」
「足音で大体誰かわかるから」
まるで犬みたいな聴覚だ。私に会うためにこんな遅くまで起きて待ってたのだと思うとどうしようもない愛しさが込み上げてくる
まだ引っ付いていたい気持ちを抑えて身体を離し、リビングに向かって歩く
放り投げられたスマホとテーブルの上のお菓子のゴミに苦笑し、片付けようと手を伸ばすと無造作に置かれた雑誌に目が止まった
「あ、これって…」
開いたまま置かれた雑誌には水着姿でベッドに横たわる自分が写っていた。掲載される以上、身近な人たちの目に触れるのは分かっていたけど気恥ずかしさは拭えない
「最近、露出多くなってきてる」
「環だって脱ぐ仕事増えたでしょ」
上半身裸で鍛えられた胸筋や腹筋を惜しげもなく晒け出すピンナップが女性誌に載ってからというもの、別の出版社からの依頼や写真集の話まで持ち上がったと聞く
当の本人が気づいているかどうか分からないけど、セクシーを売りにしているTRIGGERと比べても遜色ないくらい日に日に色気が増してきている。これでまだ高校生なのだから末恐ろしい
「仕事でも、むかつく」
「え…?」
身体がソファに沈んだのはその言葉とほぼ同時だった。突然の事に目を見開いたまま固まっていると環の手が服の裾から入り込み、脇腹を撫でた
「っあ、」
漏れ出た声を抑えようとした腕を掴まれ、顔の横に縫い止められた。スカイブルーの瞳は情欲で静かにゆらゆら燃えている
服は胸元まで捲り上がり、器用にブラのホックを外す。肌に乗せているだけの心許ない唯一の砦
「環…待って!」
「嫌だ。もう限界だから」
「あっ、ん…、ふっ、ぁ!」
強引なキスに頭が真っ白になる。熱い舌が口内を蠢き、強めに乳首を摘む。いっぱいいっぱいな私をよそに本能を暴くような愛撫に理性が溶かされていく
名残惜しそうに離れた唇は唾液で濡れている。環は鬱陶しそうに後ろ髪を一つに束ねると意地悪く笑った
艶めいた仕草や表情にこれから彼に乱されるのだと嫌でも自覚させられ頬が熱を持つ
「今すっげーエロい顔してる」
「っはぁ…環」
ショーツ越しに触れられた秘部はすっかり潤ってそこに張り付いている
「ここ、色変わってる」
繰り返し割れ目に沿って指が動き、ぴちゃぴちゃといやらしい水音が鼓膜を追い詰めた。羞恥の波から逃れたくて環のTシャツを握りしめる
「たまき…っ」
「なに?」
捕食者の眼差しが全身に痛いくらい降り注ぐ
マイペースで寂しがりな末っ子気質の彼は不器用で伝わりにくいだけで本当は優しい
知り合った時に比べたら色んな顔を沢山見てきたな
環はファンが多いのは勿論、学校でもモテると聞いてからますます辛くなった。付き合う前は私なんかより同級生の子達と年相応に恋する方がきっと幸せになれる筈だからと気持ちを悟られないよう押し殺して距離を置いた時もある
「大好き」
「………あー…もう…っ!」
押さえつけられていた腕が解かれてぎゅっと苦しいくらいに抱きしめられた
「好き。俺もみゆちゃんが大好き」
「嬉しいー」
「顔ゆるっゆるだし。…妬いて空回りするとか俺かっこわる」
「環はかっこいいよ」
「〜〜っ、優しくしようかと思ったけどやっぱやめた」
「環のえっち」
二人でソファに寝転んで、唇が優しく重なった
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