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「イレイザーさん最近現場少なくないですか」


 久々に立ち寄った母校で恩師というか元の担任の先生に会うのってちょっと緊張するけどテンションも上がる。最近会えてなかったので余計に。


「今のクラスがなかなかの問題児揃いなんだよ。お前の弟とか」


 相変わらず物が散乱した部屋を根城にするイレイザーヘッドこと相澤先生にはここ雄英を卒業しプロとして活躍させてもらう基礎をたたき込まれた。そんな俺がインターンを受け入れる準備で戻る日が来るなんて思いもしていなかった。仕事では結構会うけど先生として会うのはまじで久しぶりなんじゃなかろうか


「あー、勝己。なまじなんでもこなせて来ちゃったからプライドだけ高くて生意気でしょ」


 我が弟ながら生意気さにはビックリする。昔は「兄ちゃん兄ちゃん」可愛かったのにそれがいつのまにか「兄貴」なってた時はびっくりしすぎてぶん投げたわ。


「そっくりじゃないか」


「わはは。俺はほら、先生に認めもらおうと思った反動だったから」


 入学して一発目の対人訓練で、自分でも足りないと思っていたところを全部言われて悔しくて腹が立って負かしてやろうというか、びっくりさせてやりたかったのだ。どうだ、俺はここまでできたぞ、って感じで。多分先生に上手いことノせられたのだろうけど


「だからプロやり出して『お前の方針でいく』って言われた時は嬉しくてしょうがなかったよ」


 先生はじっとこっちを見たあと視線を書類に戻してペンで頭をガリガリと掻く。


「そりゃあプロだからな。信頼している」


「努力しましたから」


 ふふと笑って俺も生徒たちの書類を見直す。この中の何人がプロになり、活躍するのだろう。この中の何人が限界を感じ、諦めて行くのだろう。こうやって先生に背中を預けて対等に戦っていけるなら無茶苦茶な努力も勉強も無駄ではなかった。先生の凄さを本当に知ったのはプロになってからだから、この人にまだまだ及ばないけど。汚い部屋と無造作な見た目からは想像ができない全体を見る目は教員に活かされているのか教員で培ったのか。書類に目を通しながらまだまだ努力が必要なのだと実感する。


「で、何人受け入れるんだ」


 スクッとソファから立ち上がった先生がケトルから湯を注いでコーヒーを入れてくれる。香ばしい匂いがして書類を机の上に置く。

「頑張って2人かなぁ。ボスも忙しいし、俺も自分の仕事が結構あって学生見てる余裕ってそれくらい。最近はここに乗り込んだ連中のこともあってどこの事務所もピリピリしてる」


 雄英がヴィランに襲われたことは体育祭で今はほとんど取り上げられないが、危険思想ももつ連中がいると分かったため警戒しないわけにはいかない。実際軽犯罪も徐々に増加傾向でほとんど街に出ずっぱりだ。その分溜まった書類仕事もあるからあまり実家に顔も出せていない。

 コーヒーを淹れてくれている間に両腕をあげて身体を伸ばす。パキパキと関節がなって疲労が溜まっているのがわかる。まぁ身体を動かしてる方が好きなので仕事に追われるのは嫌いじゃないが、いかんせん書類がなぁ。


「...警戒に越したことはないからな。その中で2人預かってもらえるなら有難いよ」


 差し出されたマグを受け取って熱いコーヒーを流し込む。

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