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ちらりと目線だけ上げて確認すれば、自分の視線の高さに三反田の唇があって桜はドキドキする。
三反田は全体的に柔らかそうな雰囲気があるが、いつもそこまで気にしたことがなかったのに、柔らかな桜色の唇が艶々で、触れたい衝動を駆り立てた。
「……これでいいと思いますよ?」
手当てを終えたらしい三反田に顔をのぞき込まれ、桜はハッと我に返る。
いまとっても邪なことを考えていた自覚があったので、桜は視線を外しながら顔を真っ赤にしてしまった。

元から純粋な気持ちであったかはわからないが、それでも三反田と会ったり話ができたり、そんな些細なことがうれしかったのは本当だ。
けれど、三反田のことを好きなのも本当で、触れたいと思うのだって、あって当たり前の感情だった。
「桜さん? 顔赤いですけど……あっ、もしかして熱があったりするんじゃないですか?」
気づかなくてすみません、と言いながら、三反田はぶつけていない辺りの額に触れるが、もちろん熱などないのだから、首を傾げてしまっている。
天然というよりは、そういうことにすぐ考えが行かないみたいだった。

「気分はどうですか? どこか痛いとか、気持ちが悪いとか、それなら少し横になられたらいかがですか?」
熱はないが、顔が赤いのが気になるようで、三反田はそう言葉を並べるが、そういうことではなかった。
「心配してくれてありがとう。でも、具合が悪いわけじゃないよ?」
どこも痛いところも、気分が悪いところもないと言っても、それでも三反田は気になって仕方がないみたいだった。

これを言うのは恥ずかしくて仕方がないことなのだが、それでもあまりにも三反田が気にしているので、心配かけているのは申し訳なかったから、結局、桜は言うことにした。
「……顔が赤いのはね、三反田くんに額に触れられたのが恥ずかしかったからなの」
年下とはいえ、男の子らしい手とか、すがってみたい胸とか、気になって仕方がなくて、でもそう考えること自体が恥ずかしいのだと言えば、三反田はいまの桜よりもっと真っ赤になってしまった。

困らせるとわかっていたし、自分の下心をさらけ出したら、きっと敬遠されるのだろうなと思っていた。
だから言いたくなかったのに、真っすぐな三反田を前に、そんな浅ましさは隠しておけるものではなかったのかもしれない。
赤くなったままうつむいてしまった三反田に、桜は何と声をかけていいかわからなかった。



End.
















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この場合は下心になりますが、数馬とは違い、彼女の年くらいなら、普通なのかなと思います。



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