こんなことをするため生きてきたのではない

死んだ後、誰が私を裁くのだろうか――、罪は紡がれるのだろうか……ごめんね、口だけはそれだけを木霊した。
― 世の終わり ―




呆気ない最期だった気がする。記憶するにはあまりにも拙い人生の終止符だったから、何か情けなくて涙すら出なかった。死んだ人は後悔して霊として現世を彷徨うとかよく聞く噺だけど、私は、後悔など心のわだかまりなどなかった。何でだろう…って考える事なんてしなくてもわかってる。私は………、生まれて初めて生きる事を放棄したのだ。
だから、暗闇を堕ちて逝く。周囲の残魂が浅ましくももがく姿を優雅に捉えながらも、この深い深い、深海を漂った。底などないのかもしれない果てしない時の中を、私は、ただ堕ちて逝った。



「 栞那 」

誰の名前だっけ……、あれ、私?

「 そうだよ、栞那は君だけの名前だよ 」

そうだっけ……そう、なのか……。私は、自分の名前すら、もう、覚えいたくない。

「 栞那…それでいいの? 」

それでいいのって……いいよ。お願いだから引き留めないでくれないかな。もう、現世に還ろうとしたくないんだ。あそこには、もう、居場所がない。いや、違うな。居場所なんて―――。

「 じゃあ、現世じゃなかったらいいんだね 」

……返答しかねる。私が居た場所じゃない世界に転生されたって、生きる事は放棄したい。出来ればもう、一生、輪廻転生したくない。

「 そう言わないでよ…ねぇ、もう一回だけ生きようよ。今度は僕も一緒だから 」

君も…って、何故君と一緒だからと言って私はもう一度生きなければならないんだ、意味がわからない。生きたいなら君だけ生きればいいじゃないか。私を巻きこむな。

「 僕は君と生きたいんだ 」



私の沢山の罵倒と拒絶の言葉を聞いても、目の前の10歳の少年はただ、静かに涙を流しながら笑っていた。その涙で濡れたぐちゃぐちゃな顔で、拙い笑みと共に………。



『……』



次に目を覚ました時は、頬に温かな砂と塩素の効いた海が私の身体を寄せて来る。そんな波打ち際に内放たれた私は、身体をゆっくりと起こした。悲惨な末路だったはずの身体は内臓すら綺麗に収まっていた。直視するには耐えられない程のスプラッターだったにも関わらず傷一つ見当たらなかった。感覚を確かめるために手を握ったり開いたりして確認していると私は、思い出した。彼とのそう多くはない契の事を―――。



『……また、生きなければならないとは……』



ぼそりと呟いた言葉は、この水平線上を美しい緋色で彩る海には大層どうでもいいことだっただろう。立ち上がろうとしたら、脳内に響き渡る彼の声にふらりと立ちくらみをして再び砂へと身体が投げ出される。



《 外傷は消したけど、怪我が治ってないんだから無茶しちゃ駄目だよ! 》

『外傷消せるなら、内臓も治せるんじゃないの?』



極めて平静の声に、ちょっと吃驚した。彼は私の願いを逐一叶えたのか?と疑問と不思議に悩まされた。



《 それは流石に…っと!誰か来たみたいだよ? 》

『え、そうなの?……死んだフリしといた方が良いかな?』



真顔で呟く私に対して彼は、相手は人間だよ?声をかけたらと、アドバイスをくれたけど。どうやらその案は無理のようだ。何故なら、血を流し過ぎて貧血通り越して意識が先に跳んだからだ。すまない、君………。

持ち上がる身体がその逞しい相手の肌に触れる。露出度が極めて低い衣服に身を包んで居るはずなのに、何故かとても相手の体温を感じることが出来た。それは、きっと、私が生きながら死んでいるからだね。と、結論した。



( マスルール、あなたどうしたんですかこの子は? )
( そこの海岸で倒れていたんで )
( 海岸で……もしかして、人魚かもな! )
( シンの戯言など放って置いて、早くベットに運んで医者を連れて来ましょう )
( そうですね )
( 総無視か! )

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