お二人の顔が恐くてそれどころじゃありません


*ご飯粒ついてるよ?



『もぐもぐ』
「おい、トキ」
『ん?』
「ついてるぞ」



そう言ってリヴァイは自分の口元辺りを指先でノックした。ジェスチャーをして彼女に教えたリヴァイ。



『そうなの?えっと…』
「違う。そこじゃない。……俺が取ってやるからじっとしてろ」



中々取れない彼女を見限ってリヴァイは、彼女の中々取れないそのご飯粒を人差し指で取る。その時、触れた彼女の唇の柔らかさに、リヴァイの指先は少しばかり震えた。それでもご飯粒はしっかりと回収する。取れた後、彼女は『 ありがとう 』と言って再び食事を再開させる。そんな彼女に「 ああ 」と返事をしつつ自分の指先についたご飯粒を如何様にするか思い悩むリヴァイ。やっぱりここは自然な動作で食べるか、と口元へ持って行き、口を開けたその瞬間。その手首は突然背後に現れた奴に掴まれ、その指は気色の悪い男の口元へと運ばれた。



「そうはさせないよ、家政婦将軍」



ニヤリと笑って彼女の口元についていたご飯粒をあっさりとかっさらわれ、リヴァイは二重のショックを受けたのか、突然立ち上がり、彼女の隣に座ろうとしたユイの肩を掴むなり。



「表出ろ、この糞野郎」
「上等じゃないか。変態上官?」



俺の葛藤と言う名の幸福な時間を返せ。




*第二ラウンド?



自分の後ろで男の醜態が曝されている中、マイペースに食事を続けるトキ。そんな彼女の真正面しか空いていなかった席に腰を下ろす事となったエレン。



「トキさん、正面いいですか?」
『いいよ』



快く迎え入れてくれた彼女の人の良さに甘え、エレンは腰を下ろす。ふと、彼女の後ろへ視線を投げそうになって。



「見ない方が良いよ」



ハンジの間一髪の助言を聞き、エレンは極力見ないように努めながらご飯を食べ始める。



「あの、トキさん…」
『ん?なに?』



珈琲を飲みながら一息つく彼女にエレンは申し訳なさそうに尋ねる。



「訓練の事なんですか、午後は実践演習をしたいのでその責任者になってくれませんか?」
『ああ、許可証のこと?別にいいよ。午前中に書類の仕事は終わらせたし、午後はサボろうとしてたから』
「ありがとうございます……あれ?今、サボるって言いました?」
『エレンは可愛いね』



頭を撫でる彼女の意図など理解出来ていないエレンは「 はあ 」と濁しながらされるがまま。



「それで、俺の他に同じ同期生の奴等も参加するんですけど」
『構わないよ。何人に増えても』
「あの、出来れば手本を見せていただいてもいいですか?」
『手本?……別にいいけど』
「本当ですか!?ありがとうございます!!」



大げさに喜ぶエレンに戸惑うトキ。



『あの、そんなに喜ぶこと?』
「当たり前じゃないですか!トキさんの戦闘なんて滅多に見られないですし、実力は兵長のおりがみ付き。そんな実力保持者なトキさんの戦闘を見られるなんて希少です。って、他の奴らも見たいって言ってたので……」



えへへ、と照れるエレンの可愛らしい姿に、トキは無言で彼の頭を撫でまわす。素直なエレンの反応についつい甘やかしたくなってしまうようだ。
優しい微笑みで見つめられて、エレンは挙動不審者の如く、急いで食べ物を頬袋に詰め込む。赤い顔を誤魔化す様な仕草など彼女は知る由もなく。急いで食べるからエレンの頬にはご飯粒がつき、彼女は笑う。



『まったく、エレン。少しは落ち着いて食べなさい』



そう言って自然な動作でエレンの頬についたご飯粒を取ると、パクリと食べてしまう。あくまで自然過ぎるその一部始終を後ろで争っていたリヴァイとユイは停止した。



「トキさん?!!」
『ん?どうしたの?』



本人はまったくもって自覚しておらず、エレンは真っ赤になってしまった顔をして「 なんでもないです 」としどろもどろに席から立ち上がった腰を再び下ろした。子供扱いされて切ないのと、こういう事をされて嬉しいのとがエレンの心を鬩ぎ合う中。エレンはついに見てしまう。視線を上げて。そこには、顔色青白くさせるには充分な程の光景が広がっていた。



「どうしたんだよ、続きしろよ」
「遠慮しなくていいんだよ?」

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