憶えてねぇーとかいい度胸じゃねぇか

彼女を目撃したのは、5年前。ウォールマリアの壁が破壊されたあの惨劇の現場で、確かにリヴァイは空を見上げて、彼女。トキを見つけた。

宙を自由自在に舞いながら、自分よりも大きく恐怖対象であるはずの巨人を意図も簡単に駆逐する姿は、まるで『 鳥の人 』のようだった。身のこなしの軽さ、フットワークの軽さ、何より背丈があるというのに、あの柔軟性、身軽に宙を舞い、羽を休めるために地上に降りた彼女を、誰が同じ人類と言えただろうか。美しくも鮮麗された顔立ちに東洋人特有の艶やかな黒髪が靡けば、誰をも魅了する容姿。だが、その藤色の瞳だけはとても濁っていた。



5年後。再び再会を果たす。果たすのだが……。



『初めまして、リヴァイ兵士長殿。私は騎士団副団長のトキ・クロノロスと申します。今度の作戦から同行させていただきます』



造られた笑顔を貼りつけながら彼女はリヴァイに手を差し伸ばす。それは、初対面の共闘者に対して失礼のない、ごく自然な動作だったはずだ。だが、リヴァイは目つきを更に細めて影を深めた。その手を無視して鼻を慣らして背を向けた。



「フン」



そんな失礼な態度を取ったリヴァイに対して彼女は、視線を左右に彷徨わせながら何やら考え込んでから、後ろに控えていた幼馴染のユイ・ジェードに静かに内緒話をする。



『 今のどこか変だった? 』
「 いや?俺は気にならなかったよ。蟲の居所でも悪いんじゃない 」
『 うーん 』



数分後。『 まあいいか 』とその問題を投げ飛ばした。そんな彼女の態度を終始観察していたリヴァイは更なる眉間を深めた。



(( あの女。まさか5年前の事忘れてんのか? ))



名を馳せているリヴァイ兵士長は、視線を地面に落としながらふと、彼女を見上げた。あの時よりも伸びたと思われる背丈。優に自分のことなど抜いているだろう彼女の背丈にでさえ恨めしい。溜息を吐きだしながらその場を離れる。



「トキ」
『エルヴィン』



作戦実行までの準備中の最中。指揮下であるエルヴィンが彼女へ声をかける。顔見知り以上の親しみの籠った彼の声色と彼女の自然な顔の緩みを横目で見つめる。



「久しぶりの騎士団との共闘作戦だな。動きは鈍っていないかい?」
『野暮だよ。毎日人間相手ではあるけど警備してるから大丈夫』
「心配だな…君は暴走する節があるから」
『作戦通りやるって……多分』
「言いきっておくれよ」



他愛のない会話をする二人の姿に、髪をかきあげる。息を短く吐きだしてから傍へと大股で歩き出した。



「ああ、そうだ。トキ。リヴァイとは話したかい?」
『リヴァイ……ああ。兵士長さん?さっき挨拶はしたけど…無愛想で返された』
「悪かったな無愛想で」
「おや、リヴァイ。いつもより機嫌がいいじゃないか」
「冗談でもやめろ」



エルヴィンに牽制の意味を兼ねて視線を送っても彼は、どこ吹く風の如くその眼力は通用しなかった。それは想定内だったためにリヴァイもすぐに視線を目の前の彼女へ注ぐ。注がれる視線に気が付き、彼女がリヴァイを見降ろす。互いに見つめあったままでいるとエルヴィンが全ての解決への糸口を紡いだ。



「二人は面識があると聞いたが、懐かしいかトキ?」
『面識?……え、あったっけ?』



真顔でそう返された時。リヴァイはこれまでの彼女の言動の理由を知ることになる。だが、それと同時に拳を振り上げ彼女目掛けて飛んでくるその右ストレートを彼女は訳も判らずに掌で受け止めてもう片方の拳も握りしめ、互いに何故か攻防戦を繰り広げた。



『ちょっ、エルヴィン?!これは一体どうなってんだ?』
「……殴らせろ」
「……、君くらいが調度いいな」



リヴァイの攻撃をかわしながらのやり取りを誰もが出来る訳じゃないそんな中で、エルヴィンは若い彼らのやり取りを微笑ましい気持ちのまま眺めていた。


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