涙だって受け止めてやる
その日はとても雨が降った。雨露が全てを洗い流してくれるようなその雨に彼女は立ちつくした。周囲に群がっていた巨人たちはいつの間にか蒸発していて、いつしか彼女の周りには溶け切った巨人の何かだけが残されていた。
どれ程の死体の山を作ったとて、死んだ人間が生き還る事はない。死は終わりに過ぎない。死は始まりに過ぎない。どちらが本当で、どちらが残酷なのだろうか。この問いかけはきっと一生つづく人類への課題なのだろうか。大粒の雫が時折彼女の心を濡らした。
「トキ」
呼びかけることすら抵抗があるように思えたリヴァイだったが、それでも声をかけなければならなかった。彼らの周囲の巨人はたった二人の兵士によって排除された。この場に巨人はいない。それでも、彼らは両の手に握られた刃を納める事は出来なかった。
「エルヴィンが呼んでいる」
一歩ずつ近づくごとに彼は、彼女の背を小さく捉えた。戦闘中はあんなにも堂々たる奮起だったというのに、今はまるで、沈静化されすぎた草食動物かのように。ぴくりとも動かない彼女の白雪の様な肌が、指先が全てを拒絶しているかのように思えた。
「帰るぞ、トキ」
声は止まない。止める事のないその声に彼女は刃を納めた。それは、面倒だったのだろうか。しつこいだったからだろうか。早くこの場を去りたかったのだろうか。彼に誤魔化したかったのだろうか。様々な捉え方が出来るこの状況下で、彼女は外套を翻し、汚れた鮮血を飛び散らせた。その表情は、実に、穏やかだった。
『行こう』
喜びも悲しみも交り合って複雑なその表情に、リヴァイはただ静かに見つめていた。
きっと兵団に戻れば彼女はいつものように振る舞い。いつものように笑うのだろう。張りぼてのように脆いその感情の裏側で、悲鳴を上げていたとしても。
「……泣けよ」
それでも空を自由に駆け回る彼女の姿は、とても美しかった。
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