彼女の周囲は諦めの悪い奴らばかりいる

「調査兵団に身を置いたてめぇの時化た面拝みに来てやったぞ」



賑わっていた食堂に見目麗しい男が入って来た。そして目的の人物を探しながら首を巡らせていた男はふと、とある一点を見つけた途端。ドカリ、と音を立てて、彼女の前に前振りもなく腰を下ろして、そう言った。
食事をしていた彼女は特別気分を害する事もなく、ただ目の前のスープを咀嚼する。



『相変わらずルイスは口が悪いな、その顔で』
「お前に言われたくねぇ一言だな」



足を組みルイスはテーブルに肘をかけた。



「ここは、随分と辛気くせぇな」
『仕方ない。壁外調査の翌日だから』
「その割にお前は元気だな」
『おや、心配しているのかい?』
「うるせぇ、くたばってなくて残念なんだよ」



そっぽ向いてしまうルイスに、彼女はただ笑った。ルイスは何だかんだ言って彼女の身の心配をしてくれていた。無事に皮肉も言っている姿を見て、安心したように話は別の方向へと進む。



「んで?討伐数は更新したのか?」
『君程無粋な人を見た事がない』
「俺にはお前の方が卑劣だ」
『ふむ。昨日はすぐさま撤退命令を受けたから…ざっと20くらいだろうか』
「……俺はいつも思うが」
『ん?』
「お前は本当に人間か?」
『私は君の出生が不思議だよ』



カラン、とスープ皿の上にスプーンを置いた。そのタイミングと同時にユイが食後の紅茶を持ってやってくる。



「今日はダージリンだよ」
『ありがとう』
「お前は愛も変わらずストーカーか?」
「執事って言ってくれる?討伐数が桁以上に突き放されて拗ねたルイス君」
「てめぇは笑顔で人を罵倒すんな。俺にも寄越せ」
「ん?犬皿でいいの?」
「人間様のカップ持ってこい!」
『煩いよ二人共』



響き渡る二つの声に彼女が制する。その事によってルイスは舌打ちをしながらそっぽ向く。



「トキの声がうるせぇんだよ」
『ん?子犬はよく吠えるね』
「誰が子犬だ!コンチクショウ!!!」
「そしたらトキは黒猫かも。可愛い」
「一人で萌えるな性格破綻者。てめぇは大型犬だな。さしずめシークレットドーベルマン」
「俺がそんなにかっこいいのでいいなら、ルイスは、マルチーズだね」
「何で俺がそんなふわふわした生き物なんだよ?!んじゃあ、こいつは鷹だ、鷹!」
『…私がかっこいいのでどうするんだ』
「あ」
「ルイスも大概好意的だよね」
「こっちにドス黒いの向けてくんな!お、俺は別に……っ!大体、こいつの身長がでけぇから!!」
「ああ〜ルイス君は162センチだもんね〜あれから伸びたの?」
「だ・ま・れ」



ユイの襟首を掴み上げてルイスは視線を一度トキへ向けた。身長の話をされるとどうにもルイスは彼女の背丈を気にしてしまう。彼女は自分を有するほどの身長。175センチ。男顔負けなその高身長を誇り、尚且つ同性からの支持も厚いために苦虫を潰す。



「おい。騒がしいぞ、てめぇら」



眉間に数本の皺を持ってやってきたリヴァイにユイも彼女の特に表情を変えずに「 やあ 」と呑気に声をかけていた。そんな二人の普通の態度にルイスは嫌な汗を掻く。昔からこの二人がこのような態度をとる人間は大体上層部の位の高い人間か、攻撃的な人間の二つに分類される。ルイスは一度彼、リヴァイを見つめた。何やら目線が近いことに安心感は湧く。

だが、気になったのは、彼がトキに対しての態度が柔らかいことにすぐに勘づいたルイスはこいつもか、と思うのだった。こういう輩は少なくない。何故なら彼女は美貌が文句なしだからだ。しかも疎いし、鈍いし、黙っていれば大和撫子。口を開けば毒舌女。そのギャップをいいとか言う男もいるが、目の前のリヴァイはその枠に入ると断定する。



『今、お世話になってる調査兵団の兵士長、リヴァイだ』
「掃除好きな潔癖将軍だよ?」
「ああ、人類最強とか言われてる。……ってユイは友達感覚で紹介するな。仮にも上司だろうが」
「何言ってるのルイス君。俺の上司は生涯唯一人、トキだけだよ?トキ以外の人の下に着くとか死んでも信じられない」
「俺はお前の脳内が信じられない」
「……お前達の友好者にしてはまともだな」
『頭でっかちなんだよ』
「誰が頭でっかちだ!デカ女!」
「……あいつは本当に貴族か?」
『誰もが信じられないと思うが結構な位の貴族だよ』
「素行が悪いもんね」
「俺が悪いのは口だけだ!」



三人が再び昔の共通する話をし出す。それを傍でただ黙って聞いているリヴァイに、ルイスは気がつき、声をかけた。



「あいつ、面倒ですよ」
「ああ?」
「疎いし、鈍いし。恋愛に興味ない女とも言えんような女ですよ?」
「だから、なんだ」
「あいつに好意を寄せて無残にも撃沈する奴等を見た結果を言ってるだけですよ」
「それはユイとシャルの事を言ってるのか?」
「あいつ等の異常な愛は障害の問題ですけど。それよりも、本人の方がもっと壁ですよ。あいつ……好きな奴を目の前で亡くしてるんですよ」
「……」
「こういう仕事してるから想いを伝えた方がいいにも、云えないような相手に恋して、結局云えなくて、蟠りだけがあいつの心を占めてる。だから、あいつを落とせるような男がいるとしたら、そいつは……幽霊だと思ってるんで」



淡々と抑揚もなくただ告げるルイスの言葉をリヴァイはただ静かに耳を傾けていた。そんなリヴァイの態度にルイスはこれまでの男とは違う何かを感じ取り、髪をかき上げながら溜息を溢した。



「趣味悪っ」
「何か言ったか優等生」
「アンタに言われたかねぇーわ不良」

「「 ……やんのか? 」」



互いに胸倉を掴み、今にもとびかかろうとする二人を見てユイが面倒臭そうに溜息を溢した。

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