嘘をつくより簡単なこと

端的な言葉の羅列はまるでどこかの文章のようで、短歌のように歌うから思わず詠んでしまった。



「まあ、そういうことだ」
『いや、どういうこと?』



人気の少ない場所へと移動してから数分後。荒北靖友が言った台詞に、思わずツッコんでしまう。いや、端的すぎる。省略してはいけない文章を省略されているので、ここははっきりと告げるべきだと思った。



「あーそのだナぁ」
『……まあ、説明しなくても大体察しはつきますけど』
「ンじゃア、聞くなよ」
『お断りです』
「……」
『……』



拒否の言葉はとても静かに響いた。お互い無言の眼差しで数分間見つめ合うが、彼の靴先が数センチ動いた瞬間、再び追撃を言い放った。



「なっ『嫌です』



営業スマイルかの如く、笑顔で告げるが多分、相当怒っていらっしゃると思う。無駄な言い合いは避けたいけれどこればっかりは相手の思う壺にはさせたくなかった。ジリっとまた靴先が動く。それと同時に逃げ腰になる私の足は後ろへ後退する。



「たっ『無理です』



はっきりと告げているというのに互いに距離を縮め、遠ざけての攻防は続く。その間、永遠と私は機械的な言葉を羅列した。嫌だ、無理だ、断る。その三拍子を永遠と続けた。流石に口が疲れるし、喉も渇くが男とのアバンチュールなど御免被る。
このまま押しきれるかと思いきや、そう簡単には上手くいかなかった。流石、元破天荒。荒々しく壁に手をつき私はいつの間にか壁際に追い詰められていたようだ。これはさすがにピンチかもしれない。冷や汗は止まらずに相手を見つめた。



「言葉遮んなヨ、仲村チャン」
『スミマセン』
「謝ってねぇーだろ、オイ」
『私は男に興味がないんです』



笑顔をやめて本音を語った。もう、これは下手に出ている場合じゃない。一刻も早く彼の前から立ち去りたかった。



『生きている男に興味がない。だから、下についてるモンついてるこの世の男という生物は全員、生理的に受け付けません。だから……離れてくださいこの野郎サン。吐血しますよ?』



脅し文句にも似た願いを訴えた。きっとこんな物言いでは安々いかないのは承知だった、のだが。次の瞬間壁についていた手を離し、二、三歩後退して彼は他所を向いた。

あ………、アレ?



「これでイイか?」
『……はい、問題ないです』



何が起こったのか、理解出来なかった。視線を合わせずに彼は口を開けた。



「仲村チャン」
『はい』



名前を呼ばれて答えると、ムッと眉間に皺を寄せてその綺麗な黒髪をガシガシと乱暴に掻きながら、下を向く。



「保留ってことにしてくンない?」



彼が提案したその言葉の意味に気がつきながらも私は否定しようと、その言葉を無下にしようと動かした口は―――。



『わかった』



そう答えてしまった。まだまだ冬の寒さに身震いがすれば彼は「 教室戻るか 」と言って室内へと急ぐ。鼻をすすりながら私も黙って彼の後を追った。静かな廊下を二人前後に並んで歩きながら彼はその間、何も言葉をかけなかった。それでも教室まで送ってくれたようで、私が教室へ入れば彼はそのまま去って行ってしまった。



あ……アレ?

まだ勝手に告げた言動の意味を私は知らない。好奇心という名の怪物が食い散らかす前菜の出来事。


(20140318)
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