正義の騎士は騙せない

偽物なのに、あいつは傷ついた顔をした。



帰り道。私と荒北くんは互いに無言だった。特別仲が良かった二人という訳でもない、この空間が苦痛かと言われれば特に不自由はなかった。ただ、帰りは緩やかな走行だったことに少しだけ驚いた。



『ありがと』



校門まで着くと私は荷台から降りて鞄を受け取る。彼も自転車から降りて歩き出そうとした時。沈黙を破ったのは荒北くんだった。



「そいや仲村チャンは」
『ん?』



荒北くんが言葉にするより先に、尽八の声が響き渡った。



「世良、荒北―!」
『げっ』
「んだよ東堂」
「お前たち何で同じような反応をするんだ」



近くまでやってきた尽八はまっすぐ私を捉えて詰め寄ってくる。



「本当に付き合っているのか?」
『……はあ』



面倒くさいなって思った。鞄のジッパーをジリジリと外し、中に手をいれる。ガサガサと探れば指先にコツンと固い箱のようなものが当たり、それを掴み取り出した。それは、綺麗な青のストライプで包装された四角の箱。中からチョコの甘いに香りが漂った。それを荒北くんへ手渡すと、それを受け取る荒北くん。



『これでわかった?』
「………」



その意味を理解している尽八は開いた口が塞がらないのか呆然と固まっていた。そんな尽八に別れを告げて荒北くんに手を振った。



『また、明日』



手を振った私に荒北くんは無言で手を左右に振った。その小さな振り方が意外にも可愛らしかったことは秘密にしよう、顔を前に向けてから笑った。



□■□■




「荒北…いつからだ」
「ハァ?なにが」
「いつから付き合うまでの仲になったのだと聴いてるのだ!」
「ちょっ、オマっ?!マフラー引っ張んなっ!」



一心不乱に荒北のマフラーを掴んでは揺らす東堂。荒北は東堂のこの様子に眉間の皺を増やした。



「世良が……チョコをあげるなんて」
「そんなに重要なコトなワケ?」
「世良がチョコを渡すということはそれだけ相手に愛情があるという事になるのだ!」
「へぇー愛情……」



言葉にした瞬間、荒北の顔は夕日にも負けない赤が広がる。その電熱を東堂が見つめながら面白くない顔をした。



「お前でもそのような顔をするのだな」
「!!ッセ!ウッセ!!見んなしッ」
「花梨ちゃんはどうするのだ?」
「てめーに関係ねぇだろ、でこっぱち」
「くだらぬ内容で巻き込んだとしたら今のうちに手を引け荒北。俺もそこまで寛大ではない」



珍しく東堂は負の感情をむきだしていた。その雰囲気に荒北は後頭部の髪をかきあげながら。



「ッセーよ、当然だ」



そう答えた。



「だが、俺はまだ認めんからな!お前たちの関係は断固として認めーん!!!!」



そう言って走り去って行く東堂の背中に向かって荒北が怒声を浴びせたのは言うまでもない。



「ウッセーんだよぉ、オマエはっ!!!」



■□■□




《 名前も知らない男と付き合うとはどういうことなのだ! 》
『……』



お風呂から上がり髪をタオルで拭きながら先程から小言を言われているこの携帯電話。そろそろ切ってしまいたい。



『知らない訳じゃない。荒北靖友、ねぇ?』
《 ねぇ?ではない!昨日知り合ったばかりの男と易々と男女の関係などとふしだらな! 》
「パパは今日も頑張ってまちゅね」



隣で横槍をいれる鞠は尽八をネタにするのが好きなために、時々このように会話に参戦するから話が進まない。



『わかったから、健全なお付き合いを心がける。だから、あんまり心配しないでよ尽八』
《 ……お前は俺が目を離すといつも……あまり遠くへは行かないでくれよ 》



それだけ言うと電話回線は切れた。無機質音のツーンという音が耳に響き渡る。様子が可笑しい尽八の不思議な言動。



「東堂君のって心配だったの?あれ」
『多分ね。あ、荒北くんに矛先が向かなきゃいいけど』



ドライヤーで乾かしていると後ろで鞠が難しい顔をしていた。



「いや、無理でしょ。だって同じ部活だしあの二人」



聞こえなかった小さな言葉。



微かに聞こえた受話器越しで君は泣きそうな声で震えていたね?それを心配ととるか傷ついているととるかは私の自由?


(20140319)
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