Demon hand tie
「真ちゃん?俺オレ〜。あ、詐欺じゃねぇから、わかってんでしょ」
隣を歩きながら高尾くんが電話をしている。多分わたしを探している火神くんと一緒に付き合ってくれている人物に連絡しているのだと思う。はぐれないようにと高尾くんと手を繋いで歩いていると、視界にコンビニが映った。調度横断歩道ということで信号は赤。わたし達は足並み揃えて立ち止まる。ガラスを通して店内を見つめていると、レジで店員がお客の品物をスキャンしている姿が映り、わたしはその動作を見つめていた。わたしのバイト先は本屋さんだった。だから、スキャンする一連の動作は皆同じ。でも、どうしてだろう。何で今更のように思い出したんだろう。
わたしの世界でのわたしの固定位置なはずなのに…何だか最近、わたしは可笑しいのかな……。
疲れていると思い額に掌を充てて悩んだ。俯くわたしに携帯で怒られていた高尾くんが通話を遮断させてポケットに終うとわたしの様子に気がついて顔を覗くように身を屈ませた。
「どーしたん?果杞ちゃん。疲れちゃった?」
「……いいえ」
覗きこまれるその視線にわたしは逃れようと顔を背ける。ふと、思い出す。あれ、この人。どこかで………。それを確認しようと顔を戻すと高尾くんは既に前を見据えていた。
「あ、青になった。行こうぜ!」
繋いだ手を引っ張られてわたしは高尾くんの後をついていく。その後姿が本当によく似ていた。脳裏をかすめるおぼろげな彼と―――。
「高尾ッ……!」
「え……」
苗字を呼び捨てにして突然読んだわたしに彼は驚いて振り返る。コンビニの目の前で他校同士の高校生が立ち止まる。そうだ。彼の名前は、高尾って言った。目の前の彼も高尾って言う。また、同じ人が……。混乱する頭、目眩がする…苦しい。不安げに瞳が揺れる。自分の足元がとても脆く感じた。繋いだ手から感覚を失う。すると突然高尾くんがわたしの頭上に降らした言葉。
「待ってて!」
そう言って隣のコンビニ入って行き、数分もしないうちに戻ってきてわたしにゴリゴリくんという棒アイスを差しだしてくる。彼の下げた袋にはペットボトルが何本か詰まっていた。視線を袋、アイスと移していき、最後に高尾くんへ戻すと、そこには厚意という笑みがあった。
「コレちょーうまいから!」
差し出されたアイスをわたしはゆっくりと伸ばした指先に棒が触れ、それを受け取りしっかり持ったわたしを確認してから高尾くんも同じアイスの袋を開けてまた、手を繋がれる。
「残暑ってなんでこー暑いんかね〜」
愚痴を溢しながらアイスを食べる高尾くんに見習ってわたしも黙ってアイスにかじりつく。シャリっという感触と氷菓の冷たさと甘さにわたしはどこか懐かしさを覚えた。何も恐い事はないのに……身構えていた身体から力が抜けてわたしは一歩前へ踏み出す。そうすれば二人並ぶ。
「アイスありがとう」
「どーいたまして!」
高尾くんと心が落ち着いた。あんなにも混乱していた心が今は沈静化している。不思議だ。不思議だけど恐くないし、不安もない。何もない。それがとても心地よかった。まるで今までが異常だったみたいに―――。
「あ、真ちゃーん」
そう言って高尾くんが手を振ると公園のベンチで息を乱した大きな身体二つが揺れ動く。こちらを見つめて来る二人の姿に一人は火神くんだと気がつく。わたしにスポーツドリンクを持たせた高尾くんがわたしの背中を押す。不安そうに振り返りながら高尾くんが親指を立てているからわたしは火神くんの側へ歩く。目の前まで来ると汗だくの火神くんがいて、彼の手には何もなかった。買い出しを頼まれていたのに、わたしが途中で居なくなってしまってから、ずっと探していたのかもしれない。と勘づくとわたしは罪悪感に見舞われる。
「ごめんなさい。突然いなくなってしまって…」
項垂れるわたしに火神くんは大きく深呼吸をすると、わたしの頭を柔らかいタッチでポンポン叩いた。
「お前が無事でよかった」
その心からの言葉に胸を打たれる。顔を上げてわたしは火神くんにペットボトルを手渡すと火神くんは「 サンキュー 」と言って受け取ってくれた。怒っていない火神くんの優しさにわたしは心が温まった。そんなわたし達を少し離れたところから見ていた高尾くんともう一人の眼鏡をかけた青年がわたしを見降ろしてくる。
「火神。彼女は見つかったのだな」
「ああ、探してくれてありがとな」
見た事あるようなないようなわたしの記憶は曖昧すぎて疑心暗鬼になっている。火神くんの身体に隠れるようにずれると火神くんは気がついたように彼へ近づいた。代わりに高尾くんがわたしの側へやってくる。
「真ちゃん図体デカいから恐いっしょ?ごめんね〜」
「いやっ、その…何だか視た事があるような気がして……」
「そうなんだ」
高尾くんが緊張をほぐしてくれようと気さくに声をかけて会話をしていると高尾くんの肩を掴んで前へ出来た彼は礼儀正しくわたしに頭を垂れた。
「黒子と同じ中学卒業生の緑間だ」
「黒子くんと?」
「ああ。火神と偶然スポーツ用品店で会ってな、君を探して欲しいと頼まれて探していたのだよ」
「それは、そのっ…すみません。お手数をおかけしました」
頭を下げると緑間くんはどこか不思議そうな表情でわたしを見つめて来る。もしかしてこの人、カノジョを知っている人なのかもしれない。黒子くんと同じ中学出身なら黄瀬くんとも同じってことに繋がる。さつきや大輝とだって繋がる。ここは慎重に言葉を選んだほうがいいのかな…?でも、カノジョが緑間くんの前でどんなふうに振る舞っていたかなんてわからないし。第一、黒子くんと黄瀬くんの関係も疑問点が沢山あって、それに緑間くんなんて人物が増えたら頭がパンクしそう。混乱しながらも、相手を見つめる。
この人もきっとバスケをしている人なんだろうなって分析していると、わたしの目の前に手を差しだしてくる。何だか礼儀正しい人でわたしも少しだけ緊張が溶ける。その手に恐る恐るではあるが手を重ねると緑間くんは瞳を細めて、こう囁いた。
「お前は、変わらずお前の姿をしているのだな」
「え……っ」
その言葉にわたしの視界は突然暗転する。すると脳裏に横切った沢山のスライド写真がカノジョの記憶の物だと解るとそれは高速で過ぎ去って行く。追いかけようと手を伸ばせば、身体から力が抜け落ちわたしは聴覚、視角の全てを遮断されて意識を手放した。
2013.03.14
ALICE+