It was a dead end or lie
「意識…は、正常だけど…。栄養失調だから、少しずつ食べていく練習をしようか」
「……は、い」
「それじゃあ、また明日」
「あ……」
「ありがとうございました」
医師が去って行く。お礼を喉に詰まらせたわたしの変わりに、黒子さんが答えてくれた。綺麗なお辞儀がドアが閉まるまで保たれていた。トン、と閉まる音が室内に響けば、彼は顔を上げて椅子に座り直す。
「体調は大丈夫ですか?」
「あ、はい。平気、だと?思います?」
首を傾げて答えると、黒子さんは苦笑した。「 自分の事なのに 」と彼は笑うが、わたしにとってこれは自分なのだろうかと不思議なのだ。感覚はするが、身体と心が離別している気がしてならない。合わないのだ、違和感がありすぎて、気持ちが悪い。
自分の生気の感じられない肌の白さと細さを眺めていたら、黒子さんがその手に重ねてくれた。温かなぬくもりに、少しだけ気持ち悪さが収まった。
「君は、恙御果杞、さんでいいんですよね?」
「…はい。そうです」
「君の話を仮定すると、ドッペルゲンガーの証明が出来ますね」
「……ああ、そうかも」
中々、ユニークな発想に納得するわたし。そんなわたしの様子を眺めながら、彼は話を元に戻した。
「君の世界とこちらの世界での、キミという存在は、変わらないけれど、周囲の人間だけが違う…。そして、君の世界で、君は、亡くなった、で、概要は合ってますか?」
「お、お見事です……」
思わず、拍手すると黒子さんはまた笑う。笑うと言っても表情を少しだけ緩める、といった日本語の方が合っているかな。
「僕からすると、あなたの方が凄いですよ」
「?」
「自分から“死んでる”なんて、大抵の人は言えないと思います」
「それも…、そうですね」
何故、ここまで落ち着いているのだろう、わたし?生きているから?今、知らない、というか、わたしと同じ名前で同じ人物の人の身体が生きているから?自分の身体が朽ちても意識があるから?わからない……ほんとっ、自分の事なのに、わからない。
感覚を確かめるために、黒子さんの手を握ってみた。すると、彼は意図がわかったているかのように、同じ力だけ握り返してくれた。
「僕のことは呼び捨てで構いませんよ?それに、あなたの方が年上ですから、敬語も外してください」
「そうだった、ね。とても、高校生には見えない程の落ち着き払っているからなんとなく、敬語を使っちゃったけど…でも、ごめん。ちょっと、待って」
慣れないのだ。黒子さんを黒子と呼び捨てにするのには、抵抗があるのだ。この世界のカノジョにとって黒子さんは知り合いだけど、わたしにとっては赤の他人なのだから…。
息をゆっくり吐き出していると、黒子さんは、少しだけ眉を寄せて複雑そうな表情をする。何かを言うことを悩んで、想い留まっているように窺える。だけど、わたしに視線を合わせると、意を決したように口を開けた。
「驚かないで聞いてください……、こちらの世界のキミという存在も、実は、亡くなっているんです」
「……」
言葉を失う、という日本語の意味を始めて知った。
2012.09.05
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