Language of flowers of sunflowers
「退院おめでとう、果杞ちゃん!」
「ありがとう、さっちゃん」
彼女から熱い抱擁を受けながら、周囲を見渡した。
黒子くんや大輝のような、顔馴染みの他に、黒子くんとカノジョの学校の部活仲間が来ていた。豪快な、火神くんの笑みに頬を引きつらせた。
「退院出来てよかったな、恙御」
「う、うん。ありがとう…火神くん」
誠凛高校バスケ部主将、火神大我。まさか、高校3年生だとは思ってなかった。我ながら、童顔で騙された。黒子くんへ視線を投げると、首を縦に振った。肯定された。自分も童顔です、彼も高校3年生です。って顔に書いてある。意思の疎通が出来るようになれてよかったと思う反面、ちょっといらないスキルかもしれないと、愕然とする。
確か、火神くんと黒子くんとわたしの三人は三年間クラスも一緒なんだよね。頭の中のメモ紙を開いて、復習する。
「でも、よかったよね。俺たち3年で。じゃなかったら、宿題どーすんのって感じじゃない?」
えっと、確か…降旗、くんだっけかな?がそう言うと火神くんが「 ラッキーだな 」って真顔で言ってくる。それには、激しく同意した。それにしてもバスケ部のマネージャーとは……カノジョは余程、積極的なんだな。マネージャーなんて職業、わたしのような普通人はやらない。というか、そんな選択肢はない。わたしなんて、文学部だったし。と、自分の過去の感傷に浸っていると、荷物の整理とか準備とかしてくている大輝とさつきが支度が出来たみたいで、鞄を持つ大輝と火神くん。それに倣って、さつきの手を借りてわたしも立ち上がる。まだ、不安定な足取りだけど、さつきがしっかりと支えてくれる。
不安そうに大輝も見守る中、黒子くんがわたしを見て微笑んだ。
「僕は先に手続きをしてきますので、皆さんは待合室で待っていてください」
「ごめんね」
「…いえ。大丈夫ですよ」
そう言って、去って行く黒子くんの後を追いかけるようにゆっくりとした歩調で向かった。
ここに居る皆のことを覚えるのに、黒子くんは協力してくれた。毎日見舞いに来てくれた。わたしの家の印鑑や通帳、身分証明書まで全部持ってきて、入院の手続きとか治療の手続きとか、全て彼任せにしてしまっている。本来、わたしは成人しているから、わたしが手続きをしなければならないのに、彼が全てやってくれて…。
だから、思わず黒子くんに聞いてしまった。「 黒子くんは、彼氏なのか? 」と。だけど、その質問に対して、黒子くんが出した返答は……。「 違います 」その一言だけだった。
でも、友達にしても、そこまで普通やってくれるものなのかな?幼馴染の一件でカノジョという存在がわたしには、偉大な人のように思えてしまって、このカノジョならそうさせる何かがあるのだろうと、また安易な結論が出てしまった。
いや、これには結構自信がある。証拠があるからだ。何故なら、この幼馴染ふたりが黒子くんに一任しているからだ。少し自慢げな表情をしていると、大輝が失礼なことを言う。
「なに、アホ面してんだ」
「アホって……」
大輝ってこういうコミニュケーション取るんだね。一応メモ書きしながら、少しだけ嬉しい思いをした。待合室までついてしまっても、黒子くんの姿はなかったため、さつきと大輝に手伝って貰って、ソファーに座る。その周囲にわたしの荷物を置く。
「まだ少しかかりそうかもね」
「そうだな」
さつきと大輝の会話に、わたしも同意した。
「なら、ここで大人数で待ってても仕方ないし。俺たち退院祝いに店予約してるから、先にそっち行ってるね」
「おお。わりぃな、終わったら連絡するわ」
「ありがとう」
「いいよ。もう、俺ら3年も一緒に頑張った仲だし」
降旗くんたちが、そう言って火神くんと一緒に彼らと一端ここで別れた。
「仲良いんだね……」
そう呟くと、火神くんが拾ってしまった。
「何言ってんだよ、今更」
「え、あ!そ、そうだよね、はは」
危ない、危ない。冷や汗をかきながら誤魔化し笑いをした。そんなわたしにそれ程怪訝にも思われず、だけど火神くんは何を思ったのか、わたしの頭を撫で始めた。
思わず、固まってしまう。
「……」
「…あ、あの。火神、くん?」
「………、よかった」
「はい?」
「お前がまた、笑ってくれて」
「……」
神妙な面持ちで火神くんは仄かに微笑んでいた。その表情が痛ましくて、何故か心臓がぎゅっとなってしまう。この人にも心配かけたのか、そう思うと、つくづくカノジョという人は幸せ者だと思ってしまう。
「ごめんね…心配かけて」
そう言うと、人懐っこい笑みを浮かべてくれた。
「おい、火神。あんま果杞に触んなよ。火神菌が移る」
「んだと!!?しかも懐かしいネタをっ……青峰、てめえ」
「もう、昔から過保護なんだから……。いい加減娘離れしたら、大ちゃんパパ」
「うるせぇ。オマエも人の事言えんのかよ、オカン」
「ちょっと。ママって言ってよそこは!」
「だから、病院で叫ぶなって!」
「オマエに言われたくねぇよ、火神!」
「そうよ!」
「この、腐れ幼馴染がっ!」
「………ぷっ」
思わず噴き出してしまった。口元を手で抑えながら笑いに耐えているけど、やっぱり無理で小さな声で笑ってしまった。
「ははははっ、もう、3人共騒がしいよ」
『 …… 』
「ん?……」
急に静まり返ってしまった空気に、わたしも押し黙る。やばい、やってしまったかもしれない。視線を泳がせながら、下を向いていると鼻をすするさつきの声に顔を上げた。
「…ごめっ。ちょっとトイレ行ってくるねっ……」
さつきの瞳には、涙が溜まっていた。それに驚いて彼女の後姿を追えずに立ち止まっていると大輝も火神も考え深いような表情で互いに眉を寄せ合い。さつきと同じように席を立ってしまった。
「すぐ、戻ってくっかっら。そこで待ってろ」
「悪いな」
「…うん、いってらっしゃい」
そう言って、ふたりの背中を見送った。
カノジョは一体、彼らに何をしたのだろう。ここまで人を泣かせるなんて、慕われていたか、もしくは、可哀想な子なのか、それとも………。
そこまで考えて、辿り着きそうな答えの前で視界は、黄色一色に埋まった。驚いて瞬きを数回してから、その黄色が花だとわかり、次はその花がひまわりだと気がつく。
周囲のどこか歓声染みた声色に、疑問をもちつつ、その目の前にある花に触れようとしてその花は視界から消えた。次に現れたのは、眩しいような、それでいて、どこか恐ろしく感じた、綺麗な男性の笑顔だった。
「おかえり、果杞」
「………っ」
何故、だろう。胸を焦がす様な痛みに瞼が熱くなる。だけど、それだけじゃない。身体の底から冷えていくような感覚がする。そうだ、これは、足が竦んでいるんだ。
喉をゴクリ、と上下に動かして、わたしの呼吸は停止した。
2012.09.08
ALICE+