Yellow envelope

目の前の金髪イケメンと知り合いなのか、カノジョは……。そう思いながら思考は停止した。何故だろう、身体が動かない。まるで、金縛りにもあったかのように、重く、鈍く、わたしは声を出す事も出来ずに、ただ、目の前に映る彼を見つめた。



「少し見ない間に随分と痩せちゃったんスね……」
「あ、あの……」



遠慮もなしに、わたしの頬を手の甲で撫でる彼に、わたしの方がたじたじだ。わたしは初対面なのだから、こういうスキンシップはやめて欲しいものだ。困惑していると、後ろから手続きを済ませた黒子くんがやってきて。



「果杞さん、お待たせしました……っ、お久しぶりですね、黄瀬君」
「あれ?黒子っちじゃん。久しぶりっスね……ちょっと見ない間に随分と果杞と親しくなったみたいだね、お得意のスティール?」



柔和な微笑みを見せていた目の前の彼が黒子くんを視界に捉えた瞬間。凍えるような鋭い視線を黒子くんへ投げかける。その寒気に、背筋が凍りそうになり、身震いがする。口調は旧友に再会したような親しみがあるのに、視線が、態度が、刺さるように痛い。畏縮してしまう身体。そんなわたしを庇うように、黒子くんは大股で近づいて来て、わたしの腕を掴むと引き寄せて自分の背後へ隠した。突然のことで、黄瀬くんと呼ばれた彼は反応出来ずに、わたしはあっさりと黒子くんの安堵の元へ舞い戻った。



「大丈夫ですか、果杞さん?」
「あ……えっと、うん……」



黒子くんのかけてくれる言葉に疑問が芽生えつつわたしは、心配を省くように頷いた。そんなやり取りを眺めていた黄瀬くんが不敵に笑う。



「黒子っちはいつから騎士気どりになったんスか?ほんとっ、身の程知ってほしいわ。……誰から奪ったのか、忘れてないっスよね?」
「……ええ、忘れてません」



二人のやり取りに含まれる空いた言葉の中に何が入るのか、怖くなって黒子くんの裾を無意識に掴み、握りしめる。緊迫した空気の中、割って入って来たのは、大輝だった。



「オマエ等ここが病院だって事忘れてねぇだろうな」
「…青峰君」
「…青峰っち」



大輝の存在に酷く安心してしまう。ふらりと身体が傾くと後ろからさつきが支えてくれた。その温かな手に、手を重ねてさつきの顔を見ると、こちらを見て微笑んでくれた。もう、大丈夫だ。身体から力が抜けて、わたしは改めて、呼吸をした。



「青峰っち、痛いんスけど」
「……オマエ、どの面下げてここに来てんだ?返答によりゃぁここでオマエの手首を折る」



痛みに眉を寄せながら、それでも表情だけは笑う黄瀬くんの姿に大輝が黄瀬くんの手首を爪が食い込む程握りしめていることがわかった。大輝の怒りを感じて、訳がわからなくなる。わたしを支えてくれているさつきからも、黄瀬くんに対して憤怒のオーラを発していた。



「ただのお見舞いっスよ」
「きーちゃんがお見舞い出来る立場だと思ってるの?」
「お見舞いくらいさせて欲しいんスけど?一々カタチだけの幼馴染の許可とかいらないといけないんスか?」
「っ!!……果杞ちゃんに、二度近づかないで!!もう、目の前に現れたりしないで!!これ以上、果杞を傷つけないでよ!!!!」
「さ、さつき……?」
「おい、桃井?」



息を乱す程大声を出して叫ぶさつきの姿にわたしは尋常ない程驚愕してしまって。思わず、自我出てしまった。それすらも興奮しているさつきにとっては些細なことで気が付いておらず、さつきの瞳に涙が浮かび、その視界にわたしが入るとさつきはボロボロと涙を溢しながら一瞬、恐怖に染まった瞳。だけど、それはすぐに後からやってきた火神くんの腕によって遮られた。そんなさつきの不安定な状態に困惑するわたしたちを見つめながら、黄瀬くんの手首を離し、大輝が睨みを利かす。



「黄瀬。一度しか言わない。……俺達の前に二度と姿を見せるな。もし見せたら……」
「見せたら……どうなるのかな?」
「オマエを、殺すぞ」



そう言って、大輝の拳が黄瀬くんの真横を掠め、壁に大きな破壊音を奏でてへこんだ。



「わあ〜、それは嫌っスね」



擦れた頬から血が流れるのを黄瀬くんは些細なものだと言うかのように薄い反応を示して、大輝から視線を外し、一歩ずつこちらにやってきてわたしの目の前にやってくると。屈んで目線を合わせて、ずっと持っていた向日葵の花束をわたしに差し出した。



「今日は君に挨拶をしに来ただけなんスよ。それをあの人達が勝手に盛り上がっちゃって…ほんとっ、混乱させちゃったスよね?ごめんね。これ、退院祝いを兼ねて俺からのプレゼント、受け取ってくれるとありがたいんスけど?」
「……」



視線を彷徨わせながら、悩んだ末にその花束を受け取った。すると、手元にある向日葵のような笑みを見せてくれた黄瀬くんに、わたしの心臓はトクン、と小さく奏でた。これは、ドキドキとした類の物ではなく、もっと、こう……。彼の瞳を覗くように見つめて、答えを求めた。そんなわたしに、黄瀬くんは喉で小さく笑ってわたしの頬を撫でてから、身を翻して颯爽と、去って行った。さよならも、またねも、何も言わずに………。
その後姿を眺めていると、さつきと大輝がこちらに駆けよりわたしの身辺を案じる。



「大丈夫だった?何もされなかった?」
「オマエを一人にして悪かった」
「大丈夫だよ、二人とも。ありがとう」



素直にお礼を言うと、ふたりは安堵したみたいに、微笑みあってそれならいいと言ってわたしの荷物を持ち始める。火神くんも手伝う中、わたしだけはぽつんとその場から動かずに、ただ、去って行った黄瀬くんという青年のことを思い出す。
どうして、嫌われているのだろう……?カノジョとはどのような関わり合いだったのだろう?入院している原因は彼なのだろうか……?
渦巻く、謎。わたしの周囲には常に、謎の布石だけが取り残されていく、そんな気がして気が遠くなっていく。目眩にも似た感覚が視界にも表れる。だけど、そんな中、一つだけわたしが感じた感情は――――。



「追いかけたいけど……追いかけられない気がする」
「………」



もう一度、黄瀬くんに会いたい。わたしの感情はそう答えた。


2012.09.14
ALICE+